それにしても、今年の夏は暑かった。こう思いながら、私の思いは、はるか南に移動していた。

「ここはどこであろうか?」

「なにか、おごそかな歌がながれている。聞いたことがない美しい声である」

窓の外は海、そのエメラルドグリーンの水面に太陽が燦々と輝いている。

誰かが海上スキーを興じているのであろうか、その声は聞こえず、動きまわる船の映像が唯一の動画として窓の向こうに見えている。

それにしても、いつもと何か違う雰囲気である。

「この歌は、何のために唄われているのであろうか。その伴奏には荘厳なパイプオルガンの音も聞こえてくる」

私のほかに着飾った大勢の人もいるようだ。

「サンタ、マリーア・・・・」

とてもゆっくりと流れていく「ここちのよい」曲である。その歌声はますますきれいになり、ホールの響きと窓の下の海の光景とますます溶けあっている。

「この歌の響きは、いつまでも心に残りそうだ!みごとな歌と海だ!」

どうやら、この歌は前に立つ白い服の二人を祝福しているようだ。

窓の外はエメラルドの海、二人のシルエットも美しい声の歌の流れとひとつになっていた。

「あれは旅立ちの合図か!」

すこし甲高い鐘の音が聞こえてきた。

この合図とともに、いままで見えていた海の情景が少しずつ何か変わっててきているような気がした。

「ええっ!これはどうしたのであろうか?何か夢でもみているのであろうか?」

エネラルドの海の様子は変わっていないのだが、何かが違うのである。

「何かが違う。周りを見渡すと、みな、その違いに気がついていないようで、あの美しい歌も流れ続けている。ホールの中は何も変わっていない」

変わり始めているのは、微妙な窓の外の景色のみである。

「それにしても、なぜ、外の景色のみが変わっていくのであろうか?」

不思議な現象を前にして、その意味を考え始めた。

「もしかして?」

はたと気づいて、ホールの外にまで出てみた。

「やはり、そうか!」

大きなホールを載せた半島が離陸し、海に漕ぎ出していたのである。もう10数メートルも離れて、その間にはエメラルドの海が挟まっていた。

「そうか、あの鐘の合図で、この島も航海に出たのだ!」

なぜか、私は、この事態に及んで、少しも驚かなかった。

「これから、あのみなさん方と航海が始まるのか!」

「それも、いいな!」

どこかで、かつて聞いたことがある元気な若者たちの歌声が聞こえてきたような気がした。

そうだ、大学時代にワンダーフォーゲル部の連中が山の中で、この歌をよく唄っていた。

「丸い地球の水平線に なにかがきっと待っている・・・・・」

「こうなったら、これからは長期戦だ!まずは体調を整えなければならない!」

こう思いながら、「マイクロバブルの風呂」に入ることを決めた。

「『サンタマリア』の調べを聞きながら、マイクロバブルの風呂で、さらに夢の続きを見ることにしよう!」

列車は、すでに横浜を通り過ぎて終点東京に向かっていた。しかし、私の眠りはさらに深くなっていた(この稿おわり)。

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