素直で、何事においても、時間を十分にかけながら、最後には、それを実現していく、これがB君のスタイルでした。

これとよく似ていたのが、ある2歳の娘さんがハエをつかむ方法でした。

窓ガラスに止まっていたハエを指で捕まえるという離れ業は、指を止まっているように動かし、最後には、その止まっているとハエに思わせる指で、軽々とハエを捕ることを可能にしました。

指を素早く動かすとハエもそれを感知し、逃げる、その能力を備えている、これが私たちがしっているハエです。

人の成長は、このように、徐々に、そしてゆっくりとなされていく、これが自然の姿、理といえそうです。

となると、大きく成長するには、それだけ時間がかかることになります。

まるで止まっているかのように動く手と同じように、時間をかけて進むことでしか、それは成就できないのだと思います。

これに関係して、ある方の発言を思い出しました。その最初は、学生を前にしてのつぎのようなものでした。

「私は、ある問題を8年間考え続け、最近になって、ようやく、その解決法を見出しました」

「へえっ!8年もですか?」

学生だけでなく、私もそう思いました。その8年に驚いている学生たちを前にして、その方は平然と次のように語りました。

「粘って、粘って、考え続けていると、そのうちどうすればよいかが、なんとなくわかるようになってきます。ですから、決してあきらめてはいけない、これが大切なのです」

私も、同じようなことを、尊敬する哲学者から、学生時代に聞いたことがあります。

その方の講演会が終了して、その広い舞台の上にイスを丸く並べて行った懇談会の席上のことでした。

「どんな人でも、自分が好きなことを一生懸命に10年間続けることができたら、『日本一』になれる!」

明るいスポットライトで照らされた哲学者が自信を持っていわれたことですので、その鮮やかなシーンとともに、ずっと、その発言が心の中に残ってきました。

「好きなこと?」、自称「マイクロバブル博士」の私ですから、その好きなことといえば、「マイクロバブル」、それ以外にはありません。

そこで指折り数えて、その年月を数えてみました。マイクロバブル発生装置が完成したのが1995年ですから、それからだけでも15年余が経過しています。

その前に、本気でマイクロバブル発生装置を開発しようと考え始めたのが1980年前後ですから、それも併せると足掛け30年を超えたことになります。

となると、どうなるのか、その哲学者の予言は正しかったのか、それが問題になりますね。

それから、映画「男はつらいよ」でも、このようなシーンがありました。京都の有名な陶芸家の弟子に、寅さんが質問します。

「兄さんよぉー、ここで何年修行しているの?」

こういわれて、その弟子は、自分の就業期間を指で数えて「はっ」となります。それは、12年も過ぎていたからです。すかさず、寅さんが追い打ちをかけます。

「もう、見込み無いんじゃないの?」

こういわれると、この弟子の青年はますます慌てて怒りだしてしまいます。

どういうわけか、このような時には、寅さんが鋭い洞察をやってのけるのです。ここでは、この有名な陶芸家の「向上心」が問題になっていましたので、その対比として、弟子の資質が問題にされたところでした。

そこで、上記の8年ぶりの発見をした方をC先生、ある哲学者の話を聞いて感銘した若き学生だった私をD、日本を代表する陶芸家をE、その弟子をFとさせていただき、それらの成長問題を検討させていたくことにします。

これは、かなり複雑になりそうなので、寅さんには最初から理解できないことかもしれません。それゆえに、寅さんは、この考察外の人物とさせていただきます(つづく)。

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