二度目の「コーカイ」は、一度目のわずか1.5日で終わるという「コーカイ」をしないために、用意周到に準備がなされる必要があった。

思えば、その最初の重要な大統領の任務を担った方も、作家という文化系であった。

人がよすぎて、周囲の影響を受けやすいという軽さで、さらには作家という本来の資質とは程遠い職業を選んでしまったことが、そもそもの間違いであったが、これはこれでどうしようもない事情があり、仕方がないことであった。

しかし、その彼のために、最初の「コーカイ」は、おもしろく、そしてハラハラドキドキの意外な展開を見せることになったのであり、彼は、そのまぎれもない立役者だった。

サンタマリア号の船長も、作家で文化系だったので、どうやら、この立役者の資質を受け継いでいるらしい.

とにかく楽観的であり、これが、ぐいぐいとみなさんを惹き付けるという不思議な魅力を生み出していたのだから、不思議である。

おまけに、この船長の得意技は、人を笑わせることであり、次から次に人を笑い転げさせるので、笑った後には、なんとなく「それでよし」と、ついつい信用させられてしまうのである。

彼は、いつも口癖のように、こういった。

「人は、生まれつき、恐怖や不安というものを持っているが、笑いは持っていなかった」

だから、「笑い」は最も人間らしいことなのだ、笑いがあるから、何事も楽観できるのだとでもいっているようだった。

しかし、今回の「コーカイ」は3万人を連れて、海の上に漕ぎ出すのだから、その楽観だけでは少しも船を動かすことはできない、これは当然のことだった。

おまけに、海賊に出会うことがあれば、その人命を保障することも求められていた。

そういえば、前回は、「トラ何とか」というかわいらしい海賊が一人流れ着いてきたが、今度はそうはいかない。

相手が武器を持って高速船で現れた場合には、こちらも対抗しなければならない。

それから、いつ何時スパイが侵入してくるかもしれない。いや、前回のことを反省すれば、かならず大挙して紛れ込んでくるはずだと考えたほうがよい。

うかつにも、あのときは身体検査が甘かった。とくに女性に対しては、それがいい加減だったので、今回は、それを厳しくせねばならない。

それから、3万人を養うには、世界に対して積極的なビジネスをしなければならない。

「そうだ! あのときは巨額の埋蔵金を隠し持っていたから、お金の心配をする必要がなかった。しかし、今度はそうはいかない」

あの有名な塩野七恵さんによって「イタリアの飾り窓」といわれた都市のように、3人集まればすぐにでも知恵を出し合い社会的組合を作ってでも仕事をするのがよい。

それから、学生たちが協力して大学を創ったように、それもできたほうがよい。

とくに、世界中のビジネスマンが訪れて、実際に仕事ができるようになることが必要である。

これはなかなか簡単ではないので、これが軌道に乗るまでは、「キリキリアカデミア」が、その中心部分を担うことになる。

それにしても、わが祖国は、少し前にバブル景気だといってはしゃいでいたが、案の定、それがはじけると、どんどん低落していった。いまや、「失われた20年」どころか、その30年も過ぎてしまった。

この前もGDPで中国に抜かれて第3位になったといわれていたが、今度は、インドに抜かれてさらに順位を下げてしまった。

隣国の韓国にも、さらには振興してきたベトナムにも抜かれそうで、もはや風前の灯といった具合である。

「いったい、どうして、こうなってしまったのであろうか?」

肝心の政治の分野も、一旦は政権交代に期待して鮮やかな実現がなされたが、その後は揺り戻しもあって、何も決まらないようになってしまった。そのドタバタを見て、みな、政治への「期待」を失いかけていた。

こうして国中の至る所に「問題」が山積し、村が滅び、地域が疲弊していた。街にも元気がなくなり、若者が内向きの度を深めていた。

そして、国の外では相変わらずの戦争が、いくつも起きていた。

それゆえに、二度目の「コウカイ」には重要な深い意味が内包されていた(つづく)

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