小説『日本沈没』のなかに登場した田所雄介博士が明言した「鋭く、大きな直観」を、だれもが持つつことを必要とする時代がやってこようとしています。

田所博士が日本沈没を予測した時代は、1970年代の中ごろ、高度成長を終えた日本がオイルショックや公害問題を抱えて、やや踏み応えながら少し反省をしている頃でした。

当の田所博士は、地方大学で地震研究に勤しみ、そこを退官した後も、自ら研究所を設立して細々と自身研究を継続しているうちに、日本沈没の予兆を見出すことになりました。

この田所博士がいった「鋭く、大きな直観」は、彼自身の例えとして紹介されたヴェゲナーの「大陸移動説」を通じて理解することがわかりやすく、そして重要です。

彼は、じっと世界地図を眺めながら、じつはアメリカ大陸とアフリカ大陸は、その昔につながっていたのではないかという、「鋭く、大きな直観」を働かせて、その大陸移動説を考案します。

こんなとんでもないことは、だれも考えていませんでしたので、それを発表すると彼は変人だ、気がふれていると非難され、当然のことながらだれも信用しませんでした。

その批判の渦の中で、彼は失意の中で死んでいきますが、それから時が経過し、今や、だれ一人として

「彼の大陸移動説を疑うものは一人もいない」

こういいながら、まったくの「非常識の事柄」が「常識」になっていくことにおいて、「鋭く、大きな直観」が適用されたことが何よりも重要だったのだと思います。

田所博士の場合は、その非常識が「日本沈没」というショッキングな出来事でした。そのために、時の政府も、そして心ある学者も役人も動かざるを得なかったのです。

この田所博士の精神を受け継いだC先生の場合は、「8年間考え続けたことが解決した。そして、その8年とは別に15年間間考え続けて、ようやく開発法を見出した」ということに、「鋭く、大きな直観(ituition)」が発揮されたのだと思います。

非常識なことにおいては、マイクロバブルも負けていません。

マイクロバブルの最大の特徴は、その生物活性機能にありますが、これは、だれも予測できないことでした。

マイクロバブルという概念は、私が言い始めるよりも前に、一部においては、それを問題にしているところがありました。

その一例は、当方地方の大学では、高速で流体が運動を行う時に「キャビテーション」という空洞現象が発生し、このときにマイクロバブルが発生していました。

彼らは、キャビテーション現象におけるマイクロバブルを発生させないようにするにはどうするか、そのことを一生懸命に研究していたのです。

この場合、マイクロバブルは厄介者ですから、その性質を詳しく調べることはなされていませんでした。どうしたら、マイクロバブルを発生させないようにするか、そのことに焦点があてられていたのでした。

あるとき、この大学に招かれ講演を行ったことがありますが、この担当の教授が、「マイクロバブルにそんな効果(生物活性ほか)があるとは思いませんでした」と述懐されていたことを思い出します。

この場合、マイクロバブルの生物活性については、「鋭く、大きな直観」は働かなかった、及ばなかった、といえるのではではないでしょうか。

私の場合も、最初から、そのような直観を持っていたわけではなく、「とにかくやってみようか。何か、マイクロバブルにカキが反応するかもしれない」、この程度の認識しかありませんでした。

セレンディピティの幸運には接近していたのですが、「エウレカ(見つけた)!」と叫ぶまでには至っていませんでした(つづく)。

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