先日、遠い北の地から新幹線を乗り継いで、ある若い方の訪問を受けました。朝出ても、こちらに着いたのは夕方遅くでした。
さっそく、訪問の理由を詳しく聞かせていただきましたが、この夏から秋にかけて、地元のホタテ漁が壊滅的打撃を受けたとのことでした。
昨年の夏は、大変異常な水質悪化が至る所でおきていましたので、どこかの海域で必ず問題が起こる、大きな被害にならなければよいがと心配していました。
不幸にも、この予測が的中し、新聞紙上で、まず、この情報を得て、これは大変だと思っていました。
そして、この方からも、いろいろな情報をいただき、その深刻な状況を正しく認識できるようになりました。
現地では、この被害の原因として、「高水温問題」が指摘されていました。湾内の水温が高温になり過ぎて、養殖のホタテが、それに耐えられなくなって死んでしまったというのです。
そして、海面近くの高温化から逃れるために、ホタテを吊り下げる位置をより深くしたとのことでした。
ところが、この措置が適切でなく、湾内下層に形成された低酸素水域の拡大のために、かえって、その吊り下げ位置を深めたことが、ホタテの斃死量を増やす結果を招いてしまったようでした。
この話を聞いたときに、1999年当時の広島カキ養殖をめぐる意見の「対立」を思い出しました。
1998年に起きた赤潮による大量斃死の原因については、それが「密殖」のせいであるという説が流されていて、現場のカキ養殖者は、それに反発していました。
カキを作り過ぎて、その糞がたくさん海底に溜まり過ぎて、それが原因が海の水質悪化が起こったという考えで、生産調整をせよと、カキ筏ごとに養殖許可のカードが設置されていました。
これは、カキ養殖業者が海を自ら悪化させてといわんばかりのことでしたので、それこそ、現場のカキ養殖業者が、それには納得しないことは無理からぬことでした。
これに対し、一部のカキ業者が、その赤潮発生時に観察した事実が重要で、それは、水深2m以下の生物はみな死んでしまったので、酸欠か無酸素化が起こったにちがいないというものでした。
それは重要な事実であると思い、私は、その観点から、その前年の赤潮の原因を探っていきました。
結果は、当時の広島市が管轄していた水質観測情報があり、それにおいて、極端な酸欠現象が起きている実測データがあり、その溶存酸素濃度の極端な低下が、赤潮の大量発生後に発生し、それが原因で大量のカキが斃死したことが明らかになりました。
そして、この「密殖か、酸欠か」をめぐる論争は、NHKなどのテレビ番組の特集や大手新聞紙上の記事で、比較検討がなされるようになっていきました。
また、私も現地で実測を行いましたが、江田島湾の底質は、そんなに悪くなってはおらず、カキの犠糞が大量に蓄積されて、それが直接の水死悪化の原因にはなっていませんでした。
しかし、ここで私が問題にしたのは、せっかくの広島湾における水質観測結果が、現場のカキ養殖業者に有効利用されていなかったことでした。
つまり、「溶存酸素濃度4ppm以下で生物の生息に支障をきたし始める、また2ppm以下では、すぐに誌に始める」という認識のもとで、その対応策を講じるということができていませんでした。
観測でデータは明らかにされるのみで、それをもとにどのような対策を講じるかが徹底されていなかったのです。
そして、ついには、45億円の大被害を発生させてしまうという事態に追い込まれていったのでした(つづく)。
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