1998年に広島湾で起きたカキの大量斃死の現象と、ほぼ同一の現象が、今度は、陸奥湾で起こった、これが私が最初に抱いた印象でした。

そこで、この問題の類似点および相違点を以下に示すことにしましょう。


発生時期  場所  養殖生物  被害総額  定量斃死の原因

1998年  広島湾  カキ     45億円   赤潮発生後の酸欠・無酸素化

2010年  陸奥湾  ホタテ    65億円   酸欠・低溶存酸素化


それぞれの大量斃死の原因を、上記のように記述すると、関係者のみなさままは、「そうかなと?」と、首をひねられる方もいるかもしれません。

広島湾の場合も、酸欠ではなく、カキの作り過ぎ、すなわち「密殖」が問題であるという意見が執拗に流されていました。

しかし、その被害が出たのは、最も過密に養殖がなされている海域ではなく、その周辺部の比較的閉鎖性が高いところなのでした。

しかも、少なくない漁師のみなさんの証言により、水深2m下のカキは全滅、それよりも浅いところにあったカキの何割かは生きていたことも明らかになりました。

今回も、異常高温に直接の原因があるわではなく、その大被害における主たる原因は、陸奥湾下層において溶存酸素濃度が極端に低下し、それが、8月の盆過ぎ以降において、4ppm以下の警戒値、さらには、そからさらに低下し、危険値の2ppmに至ったことにありました。

この酸欠の原因は、陸奥湾において大量の植物プランクトンが発生し、それが死滅することによって大量の溶存酸素を奪うことにあります。

大雨が降り、陸奥湾周辺から大量の栄養(塩)が流れ込み、その栄養が原因で大量のプランクトンが発生し、それが、引き金となって、その死骸が海底に沈み、溶存酸素を奪うことで、海底下層に酸欠および無酸素水域が形成されるようになります。

おそらく、これに加えて異常高温と、その持続によって、植物プランクトンの発生量が増加し、それが、さらに事態の悪化を増幅させたのではないかと思います。

また、その際、特殊なプランクトンが発生している可能性はないのか、この点も調べてみることが重要ではないでしょうか。

さて、この溶存酸素濃度が8月お盆以降において徐々に低下し、警戒数値の4ppmを下回り、さらに、それが低下して危険水域の2ppmに接近していくことが実際に観測されています。

このとき、前者においてホタテ警戒警報を発し、その後者においては、緊急の避難も含む危険警報を出すことが実用だったのではないかと思われます。

海の悪化は徐々に進みますので、前者の場合は数日、後者の場合は1日程度の猶予がある場合もありますので、それらを考慮して、事前の対策が十分に練られておく必要があるのですが、これについても、陸奥湾において確立されていたのかを尋ねてみたいですね(つづく)。

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