小説『日本沈没』の上巻における最後は、田所雄介博士が、時の山本総理の指示によって結成された「D-1」チームの責任者になり、日本沈没を予知するとともに、その直後において東京直下型地震で約200万人が死亡するという大事件が起きて終了します。

日本沈没という「だれも予想しなかった出来事」を予知し、政府が機敏に動いたことから、多くの国民のみなさんの命が救われた、これが山本総理の実感でした。

この「D-1」チームの存在で、山本総理は、それこそ総理の威厳保ちながら、それこそ想定外の現象においても、総理としての責任を果たしていきます。

この科学者と官僚のチームが、海底調査や地震シミュレーションをしていく姿は、現在の各種動きと見事な対比を見せています。

やはり、正確な科学的予知と確かな助言をするところが、かなり違うようです。

それにしても、あれだけ大量の高濃度放射線物質を含んだ水はどこにいったのでしょうか?

幸いにして海への流出は止められましたが、それがどこに行っているのか、そのことについては皆目分からないという説明しかなされていません。

そこで、この汚染水の行方を推測してみますと、それは次の2つのケースしかありません。

①まず、トレンチほかの高濃度汚染水の滞留しているところの水位はほとんど変化していませんので、それにつながるタービン室の地下に溜まった地下水に流入しているわけではありません。

しかし、原子炉の冷却は大量の水を使ってなされていますので、その過程で大量の水が漏れだしていたことは周知のことです。

②となると、残るは、地下に浸透している、この可能性しかありません。

問題の高濃度汚染水は、いまだタンクに入れるまでには至っていないのですから、大規模で深刻な地下水汚染が進行している、これは簡単に予想されることですから、なぜ、そのことを開示しないのか、その姿勢については不思議でなりません。

それから、燃料棒の破損問題、それが1号機において約70%、2号機と3号機では、20~30%まで進んでいることが明らかにされています。

その割合は、そこから発生している気体の分析から導かれたようですが、報道では、その具体的情報が示されていないようです。

こういう問題こそ、科学者がきちんとした説明をすべき事柄ですが、それが果たして十分になされているのでしょうか?

それにしても、この問題についても、テレビなどメディアに出てきた科学者のみなさんの解説と予測には首をかしげるものが少なくありませんでした。

最初の頃は、「水素爆発など起こるはずもない」と口を揃えるかのように言い合い、それが起こると、その事実は渋々認めざるをえなくなり、その次には「燃料棒の破損など起こらない」と言いきっていました。

科学的予見とは、最善の場合と最悪の場合の2つをきちんと説明するのが普通のことなのですが、今回の原発事故における初期の解説においては、その楽観性が際立っていて、そのために科学者のとしての権威は、すぐに失墜してしまうことになりました。

しかも、その楽観論が、その翌日には、事実を持って打ち消され、誤りであったことが目の前で証明されていきましたので、そのうち、それらの科学者は、マディアの前には出られなくなってしまいました。

その意味で、『日本沈没』に登場した田所雄介博士のような骨太の科学者は、どうやらいなかったのか、そのような方々はメディアには登場できなかったかの、どちらかだと思いました。

それから、今回の一連のことを通して考えてみますと、そこにあるものは、徹底した情報開示の不足であり、やはり「不都合な真実」に関する情報の開示はなされていない、ですから、正確に事態を理解できない、そして、そのために不信感が積み重なり、成長する、このような事態を招いているのではないかと思えてなりません(つづく)。

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