「そうですね。ほんとうに、いつまで続くのでしょうかね。あれから10年も経つのに、いまだなんら解決していないように思います。それから、避難区域内の人々はもちろんのこと、その周辺の方々も、徐々にいなくなり、人口減が続いています」

「忍耐と我慢にも限度がありました。目に見えない放射能に対する不安が解消されず、深刻な情報は、小出しで、かつ後出し、みな、このやり方にすっかり慣れてしまいました。

それから、あの事故以来、その対応で莫大なお金が必要となりました。この事実を知った国民のみなさんの意識はすっかり変わってしまいましたね」

「この暗くて陰鬱な事故と、その後の気の遠くなるような対策処理で、私たちは貴重な多くのことを学びました。そして、そこから抜け出すために根本的な方法を模索するようになりました。」

「そうですよ。負の連鎖に拘っているだけでは何も出てきません。逆に、新たな社会的経済的価値を生み出すものが必要なのです。

しかも、それは、私の仕事のように、芝居を見て、その時ちょっと楽しくなってユートピアを感じる、その次元で満足してはいけないものなのです」

「今日は、いやに謙虚ですね。いつもと何か違うようですが、何かあったのですか?」

「私だって、たまには、そのような気持ちになるときが珍しくあるのです。とくに、あの小さな泡の恩恵を得るようになってからは、その回数が増えましたね」

「やはり、そうでしたか。私も、なぜか、気分前向きになり、プラス思考ができるようになりましたが、やはり、それですかね」

「気分だけでなく、プラス思考だけでもなく、なんといっても私の場合は集中力が増してきたようで、前よりも即断できるようになりました。

これが大きいですね。ですから、自分でも、これは本物だという実感が得られるようになり、あなたにも、そのふかい研究がなされることをお願いしたわけです」

「第1の課題は、お年寄りのみなさんを元気にすることでした。これには、N県A村の実績がありましたから、これがヒントになりました。

わが国にはたくさんの温泉があり、どこでも、『観光温泉から健康温泉へ』のスローガンをかかげて、尽力されていましたが、なかなか、それは実現しませんでした。

しかし、このA村は、ほかとまったく違っていました。なにせ、多くの『元気高齢者』が出現したものですから、まず、その実績が圧倒的な説得力を発揮しました」

「この実績が認められ、徐々に他の自治体からも注目されるようになりました。とくに、10年前に、この元気高齢者に関する詳しい調査研究が総合的になされ、その成果が広く報告されたことが大きかったですね」

「あの調査研究の結果はすばらしかったですね。私どもの研究に、非常に参考になりました」

「というより、丸ごと参考にさせていただいたといいましょうか、そこに立脚したわけですね。

なにせ、高齢者のみなさんは、病気のデパートとまでいわれているように、たくさんの病気と毎日闘っておられます。

ですから、その闘いそのものが研究に役立ったわけです」

「高齢者、温泉、これに、その小さな泡が結び付いて研究が総合的になされました。その結果、・・・・・」

「そこから生まれてきたのは、若返りの問題でした」(つづく)

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