武蔵は、山頭火の「青い山」について考え始めました。

何事も、いざ考え始めると、どこまでも考えてしまい、そのことが頭から離れなくなってしまう習慣を持っていましたので、今回も、その頭になってしまいました。

「青い山、このように見えるのはいつの季節か? 春だと木の芽が出ていない、秋だと紅葉で赤くなるはずだ、雪が降る冬には白い山になるはずだ!

残りは夏、若葉の季節だと緑であるから、青くなるのは、それが過ぎた初夏のあたりか、青い山は、夏が始まったころか?」

武蔵は、初夏の山々が青く見えることについては、すぐに納得することができました。目の前に、木曽路の青い山々が迫っていたからでした。

「初夏に山頭火が、この木曽路にやってきた、この可能性は高い。だから、青い山といった、ここまではわかる。問題は、それだけではないということだ!」

となると、他にどんな意味があるか、青いといえば、「青二才」、「青年」、「青い果実」を思い浮かべますが、これらは、未熟な人間、果物のことをいいます。

武蔵は、この「未熟な」という意味を当てはめてみましたが、「未熟な山」では、どうも話がつながらないと思いました。

「となると、山頭火は、どういう意味で『青い山』といったのか? そこには、何か未知の『重要な何か』がありそうな気がする?」

「その『未知の重要な何か』とは何か?もしかして、それは清外路村の一番清水よりもおいしい水か、それとも、心安らぐ緑の地か、いや、猿が憩う温泉か?」

「いや、そんな単純なものではないであろう。もっと精神的に重要なものか?」

「分け入っても、分け入っても、武士道。分け入っても、分け入っても、二天一流。これらの響きはわるくないな! それとも、分け入っても、分け入っても、小次郎との・・・・」

「いやぁー、小次郎は死んだはずだ!」

いつの間にか、「青い山」のことよりも、「分け入っても」の方を考えながら歩き続ける武蔵でした。

相変わらずの健脚の武蔵にとっては、三日三晩の歩きの旅はなんでもなく、あっという間に目的地の可智村に到着していました。

「これで、ようやく、あの白い泡の温泉に入れる!」

こう思うと、武蔵はわくわくする気持ちを抑えられなくなりました。武蔵も人の子、温泉に入りたい気持ちは同じでした(つづく)。

Gohho105