ここは、山陰松江の奥座敷にある温泉、もうほとんど記憶が薄れてしまいましたが、それこそ30数年ぶりに、この温泉地を訪れる機会に恵まれました。

静かな風情のある温泉地で、小さな川を挟んで旅館が並んでいる光景は城崎温泉にもよく似ています。

しばし、泊った旅館の部屋から、この川の水の音と風情に親しむことができました。それから、食事の後に、ゆっくりと露天風呂を楽しみました。

少しひんやりとした風を感じながら一人露天風呂に入りました。

さすが、老舗の旅館の露天風呂でした。まず、少し変わっているなと思ったのは、水深がとても深いことでした。底まで腰を下ろすと首の上までお湯に浸かってしまうのです。

これは明らかに、風呂の底には座らずに、周辺の大きな石に腰をかけて風呂を楽しむことを優先させた方がよいことを暗示したつくりです。

これに従い、大人が2人ぐらい座れる大石に腰をかけ、周囲の植物を眺めて楽しみました。

右手には、お湯が流れてくる階段状の小さな滝があり、水の動きと音が、静けさを増す効果を醸し出していました。

正面にはつつじ科の植物が湯面まで張り出してきて、その背後には大きな松の木が植えられていました。

露天風呂内の縁に大きな座り石があり、そこに腰かけてしばらく物思いに耽っていると、どこからか月の光が差し込んできて、露天風呂の風情を高めていました。

「こうして、じっくり、そしてゆっくりと露天風呂に入るのは久しぶりのことだ。それにしても、今年はいろいろなことがあった。

どうやら、全体の流れがやや変わってきたようだ!これから、どうなっていくのであろうか?

それにしても、なかなか充実した一日だった」

松の木の向こうには、明るい月がありました。思わず、次の文句を口ずさんでいました。

「世の中は、ああ世の中は

なぜこんなに急いて流れゆく

今宵は月が旅路を照らそうぞ」(つづく)

月夜ー1