水槽内に大量に発生したマイクロバブルによって、カキの口がたしかに開き始めました。それを待ち構えていたカメラマンのカメラが、それを執拗に撮影し続けました。

「たしかに、開いている」

ディレクターが、こういいながら、不思議そうに見つめていました。

そこで、こう続けました。

「ここでカキを空中に上げて、口を閉じさせます。通常でしたら、その後は口を開けないのですが、マイクロバブルがあるとすぐに再び開きます」

こういいながら、それを行おうとしたのですが、その時は、次の実験に目を奪われてしまい、そのカキを再び見ることはありませんでした。

これは私のミスでもあったのですが、その次の実験を示したからでした。

「それでは、次の実験に移ります。みなさん、我こそはと思われる方は、この中に腕を浸けてみてください。そして、腕の血管がどうなるか、それをよく観察してみてください」

こういうと、例のディレクターが、まず真っ先に手を突っ込みました。続いて、年配のカキ漁師の方も手を深く入れ込みました。

「さて、どうなるでしょうか?」

「みなさん、海水の温度は、気温よりも低いので、通常だと血管収縮が起こって、血管は浮いてきません。血液も流れにくくなります。にもかかわらず、どうなるか、みなさんは賢いですから、それはすぐにおわかりのことと思います」

こう言おうとした矢先、先ほどのディレクターが早くも腕を出して見比べ始めました。この間、2,3分といったところでしょうか。

「違う、違っている!」

こう言い始めました。そうこうしているうちに、カキ漁師さんも腕を上げて水につけていない腕と比較し始めました。この漁師は、半袖のTシャツですから二の腕までがよく見えていましたので、その違いは明らかでした。

私も、彼の傍にいましたので、その血管が見事に浮き上がってきていることを簡単に観察することができました。

「どうですか、血管が浮き上がってきましたね。これで腕だけ、少し若返りましたね!」

「カキだけが元気になるのでは世の中の道理が通りません。みなさんもカキと同じように元気にならないとカキ漁は発展しません。どうか、マイクロバブルで元気になってください!」

というと、みなさんから笑いがいくつも生まれていました。

それからは、若くなった、何歳若くなったか? これらの冗談がどんどん飛び交うようになり、楽しい雰囲気が生まれました。

こうして、マイクロバブルの科学に関する難しいことをやさしく、やさしいことを深く、そして深いことをおもしろく理解することができたようでした。

いつのまにか辺りは少し暗くなり、気仙沼湾にも夕闇が迫り始めるころになっていました。

「この辺で、本日のデモ実験は終わらせていただきます。どうも、ありがとうございました。これでみなさん、マイクロバブルのことをよく理解されましたので、相当得をしましたね!」

こういうと、みなさん、とても満足そうな表情をなされていました。なかでも、あるテレビ局のOさんは、とても満足されたようで、帰り際のあいさつでも、それがよくわかりました。

私も、このようにすればデモ実験がうまくいくのかと思いなおし、よい体験をさせていただいたと思いました。

みなさんに別れを告げ、この現場を紹介していただいたSさんに途中まで送っていただいて、車は大船渡に向かうことになりました。

辺りはすっかり暗くなったいました。

「今日の光潮荘の夕飯は何であろうか?」

そことが気になり始めたころでしたが、それに加えて、いよいよ明日は、綿密な観測とカキの詳細な生育調査を行うことになっていると思うと、なにかしら、その期待に胸を膨らませていました。

その大船渡湾では、マイクロバブル発生装置104機が稼働し始めて、本日で69日が経過しました。その総発生量は約2万立方メートルにもなりました。

9月になって海水温が最大になり、そろそろ、そこからつるべ落としに水温が下がってくるころであり、それとともにカキが一段と元気よく成長する季節がやってきているにちがいない、そう思いながら、車は暗闇の中で大船渡湾を目指していました(気仙沼編は終わり)。

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やや透明感が出ている気仙沼湾の様子(筆者撮影)