3日ほど歩き続け、武蔵はようやく目的地の温泉地に着きました。

「なるほど、これが白い泡の温泉か!」

まず、足を踏み入れた感触が違っていました。

「おやっ? これは何だろうか?」

武蔵は、温泉水が足の皮膚を通じて深くしみ込んでくるような不思議な感触を覚えていました。

その感触が何なのか、それを追求する間もなく、温泉に腰をおろし、手をつけ、肩も浸して、その温泉水が染み入ってくることを確かめました。

「これは、不思議な温泉だ!なぜであろうか?」

こう考え始めて、再び、その思考は簡単に停止させられました。

「今度は、違う感覚だ!なぜ、こんなにここちよいのか?」

全身に温泉水がしみ込んでくる感覚に陥った後から、なんともいえない「ここちよさ」が押し寄せてきたのでした。

しだいに、このここちよさに酔いしれた武蔵は、不覚にも、そのまま睡魔に襲われ、負けそうになったのです。

「眠ってはいけない、しかし、眠い、ここちよい眠気、こんな気持ちになったのは久しぶりだ!それにしても眠い、、、ねむい、、、」

旅の疲れが手伝って、武蔵の身体はすっぽりと睡魔に襲われ続けました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「起きろ!武蔵、お前ほどの剣客が見知らぬ土地で、簡単に眠ってしまってどうするのだ!

起きろ武蔵!」

「だれだ! 俺の眠りを邪魔するやつは?」

こういいながら、武蔵は、まだ眠りの中にいました。

「まだ眠っているのか、武蔵、貴様の目の前にいる俺をいったいだれだと思っているのか!」

「何だと、目の前にいる、どこにいるのだ!」

「目を覚ませ、眠ったままでは、おれにやられるぞ!」

「なにっ!」

この挑発的な言葉に慌てて眼を見開いた武蔵でした。

「貴様は小次郎か!」

「何を寝ぼけているのか、小次郎は巌流島でお前が倒したではないか!」

「そうだった!誰でもない、俺が小次郎を倒したことはまちがいない。それでは、いったいお前は誰なのか?」

「目を大きく開いて見よ!」

うす暗い夕暮れのなかで、武蔵は温泉の奥のほうにいる白い物体が立っていることに気付きました。

「おまえは何者だ!」

武蔵は慌てて刀を探したが、そこには刀があるはずもなかった。

「よく見ろ、俺が誰だかは、すぐ見ればわかるはずだ!」

そこには、小さな白い猿が立っていました(つづく)。

Saru-1