早朝からの海での観測、カキ生育調査、視察団受け入れ、夕方からのささやかな交流会などのイベントを済ませ、夜遅く、採取したカキとともに(水槽に入れて)、宿舎に入り、その日が終わりました。

ところが、無理を言って何とか探していただいた民宿のつもりが立派なホテル(廣洋館)であり、しかも、その特別室に案内されて、さらに吃驚しました。

ここからの海岸の光景が素晴らしく、二人してうっとりと夜の景色を眺めながら、しばしの心地よい転寝をしてしまい、深夜に目が覚めることになりました。

その日の朝は、早起きして、その視察団のみなさんを車でバス停まで送っていかねばなりません。

なにせ、地震と大津波で交通網が正常化していないところですから、それを踏まえて行動せねばならず、ベッドに入ってからは、それこそ1時間おきに目を覚まし、無事出発できるように気配りをすることになりました。

これは、連れの調査協力者の方も同じで、結果的には予定の時刻に起きて風呂に入り、無事車で出発できたようでした。

そして、ようやく大役を果たし、海の向こうが白けてくるころに、安堵の気持ちがわいてきて、ゆっくりと風呂に入ることができました。

海を見ながら、涼しい風を感じながら朝風呂に入れる、これはなんと贅沢なことかと思いながら、そのわずかな一時を新たな出会いとともに楽しむことができました。

人生とは不思議なもので、ひとつの峰を越えかかると、すぐに次の新しい峰が見え始めるのです。

「今回の調査も、これで無事終わりそうで、よかった。それにしても、マイクロバブルはよく働いてくれる!みごとなものだ。カキもずいぶん喜んでいた」

窓を開けたせいか、心地よい潮騒がやや大きめに聞こえてきて、朝の太陽光線がより鮮やかに風呂場に入りこんできました。

「これからは、ゆっくりと時が流れにしたがい、坂道を降りていくことになりそうだ。思えば、よくここまで登ってきたもんだ」

海辺のきれいな景色に目をやりながら、武田鉄矢の「思えば遠くにきたもんだ」の歌が自然に浮かんできました。

「さて、これから、どうしようか?」

こんなことを頭の中に浮かべながら、やや熱めの風呂に浸りながら、そのもう一つの出会いも楽しむことになりました。

その出会いとは、まったく新しい形態の風呂であり、それが特別室の目玉となっていたのでした。

普通は、縦長の風呂桶の形をしていますが、この風呂はほぼ正方形で、その対角線の部分が体長程度であり、この長い部分をお湯の中に沈めると寝ながらの入浴と、その体形からの海辺の鑑賞ができるようになっていました。

「そうか、この状態からの眺めが最高で、心地よい空間を意図していたのか!」

なんだか、そのプライムタイム(最高の一時)を見つけ、一人でうれしく思っていました。

「それにしても、今まで見た事もない風呂の形をしているな、おもしろい!」

今度は、先ほど寝そべった対角線と直角方向に座りなおすと、そこでは、座りながらの半身浴を楽しむことができました。

朝日を右斜め上から浴びることができ、これなら新聞も読めそうだと思い、昨日、いただいた日蓮宗の住職さんが1面に渡って書かれていた新聞を取りにいき、風呂を楽しみながらじっくりと読ませていただきました。

この住職さんは、地震と大津波があった日に、市内に買物に出かけられており、その知らせを聞いて、すぐに山手のお寺に帰ろうとされたそうでした。

ところが、引き返そうにも道路が車で溢れ、まったく身動きが出来ずに、途方に暮れて焦っていました。

「このまま、ここにいれば命が危ない、海岸線の道路を通り、迂回して帰ろう!」

奥さんと、このように相談して、すぐに海岸線の道路に出ました。この機転がよく、自らの命と人々を救うことになりました。

その通りには、車も人もおらず、わずか数分で、目指すお寺の下まで来ることができ、九死に一生を得ることができました。

この住職話によれば、この渋滞の道路沿いと車の中での死亡が最も多かったそうで、車での避難の問題点が浮かび上がっていました。

大津波は、全部で8回、寄せては引くというサイクルを繰り返したそうですが、その一部始終を山の上のお寺から呆然と見続けていたそうです。もちろん、登ってきた避難民の方々を助けながらですが、その光景は忘れられないと仰られていました。

その住職は、今回の大津波を黒い羊羹のようだといわれていました。海底のヘドロを巻き上げ、何度も、その羊羹が押し寄せてきたことが、その新聞記事にはきわめてリアルに記述されていました。

「黒い羊羹、すべてをなぎ倒し、奪っていった大津波のものすごい力、途方もない力、これに対して、わが方の立ち向かう力のかよわさよ!いったい、どうすればよいのか?」

新聞記事を読み終えたときに、この思いが込み上げてきました。

風呂から上がり、窓辺のベンチへ、そのまま行き、何もなかったように寄せては来る波をみながら、しばらく何も考えずに佇んでいました。

朝陽はますます上空から射してきて、その光を強めていました。

「しかし、無力に近い微弱なものであっても、ここからしか出発できない。できることを最大限やりつくすしかない。それにはマイクロバブルが力になってくれる!」

思い直して、再び、この新型風呂に入りなおし、気を取り直しました。

「今日は、大船渡から徳山まで、それこそ一日がかりで南下することになるぞ!長い旅になりそうだ」

(つづく)

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大船渡湾の夕焼け、YO氏撮影。