早々に朝食を済ませ、お馴染みの実験場である大船渡湾蛸の浦に到着しました。

早速海を覗くとやや濁っていてました。Sさんに、その訳を尋ねました。

「海が少し濁っていますね。最近、雨が降りましたか?そのせいですかね?」

こう尋ねると、やはり雨があり、昨日から、このように海が濁り始めたとのことでした。雨が降ると、川と地上から水が流入し、その栄養によってプランクトンが生成され、このように濁った海の水になるのです。

「今日は、まず水中カメラのテストから始めましょう!」

新たに持ちこんだ水中カメラの試運転が始まりました。簡単な接続でカメラの撮影が可能なのですが、その画像がモニターに写ってきません。

実験助手のYO君が入念にチェックをしているですが、目当ての撮影画像が見えてこないのです。

「おかしいなぁー、そんなはずはないのに、どうしてだろう?」

しかし、いくらチェックしても同じでした。そこで、代わって私も点検させていただきましたが、結果はやはり同じで、画像が見えずにしばらく途方に暮れていました。

そこで、モニター画面の装置を船底に置いてみたところ、画像が一瞬見えてきました。「おやっ」と思い、それを置き直すと同じような現象が起こることを確認しました。

原因は、撮影された画像をモニターに送りこむコネクターの不具合だったのです。その部分を触ると、画像が見えたり、途切れたりしましたので、ようやく悪戦苦闘の末に、その原因を突き止めたのでした。

「新品でも、こんなことがあるのか」と思いましたが、このような不具合が起きることは防ぎようがなく、これで約1時間をロスしてしまいました。

やれやれ、今日はさい先悪いなと思いながら、恐る恐る、見え始めたモニターからの画像を「今のうちに撮影をしてしまえ」と思って録画し続けました。

海の底にはヘドロが堆積していました。Sさんによれば、大津波が来る以前は、もっとヘドロの堆積があり、ずぶずぶと重い物が沈んでいったそうです。

この観測でも、それと同じことが起きました。カメラの部分がやや重いのですが、それを海底の部分にしばらく置いておくと、いつのまにかヘドロの中に沈んで簡単には引き上げられなくなってしまったのです。

「これは重くなっている、どうしたのか?」

と思って、より力を入れて引き上げると、ヘドロのなかからようやく引き上げられたのでした。

それから、モニター画面には、ヘドロが堆積した表面が映し出されていました。同時に、風が出て海面が波立つと、このヘドロの揺動が起こり、水面の動きと連動してヘドロが巻き上がる現象も観察することができました。

この巻き上がりは、水深が浅い部分ほど顕著であり、表層の海面と海底付近の流動がほとんど一体化して連動していることが判明しました。

海底のヘドロといえば、もっとも有名なのが有明海です。ここには粘土質のヘドロが大量に海底に堆積しており、それが最大7mもある干満差によって毎日流動しています。

これによってヘドロといえども腐敗がなく、それがかえって微生物の住処になり、好都合の環境を形成させているのです。大きな干満差と海が浅いことが幸いしているのです。

これに対し、海の深さでは大船渡湾とほぼ同じなのが広島湾です。ところが、ここでは海水の流動が少なく、そのために海底付近には栄養塩の流入によって発生するプランクトンの市街が堆積して無酸素化が形成されやすいのです。

現に、広島湾では毎年のように夏場の無酸素水機が大きく形成される現象が起きて、それが水質悪化の原因となっているのです。

同じ深さであっても、広島湾は丸い形状の湾であるのに対し、大船渡湾は細く長いので、流動が湾内で起こりやすいのです。

そのために、大船渡湾では、ヘドロが堆積しても、潮流の干満差や流入、風による流動などの効果によって、水深方向に変化がない、すなわち、表層も海底付近もほぼ均一になって流動するパターンになっているのです。

これが大船渡湾の水産養殖における魚場の衰退を顕著にさせない原因となっているのです。これに対し、広島湾では、海の表層と海底付近では水質に大きな違いが生まれ、海底付近には無酸素水域が形成されるまでの悪化が起こります。

夏からの一連の観測によって、大船渡湾では、この種の水質悪化の傾向がほとんど現れませんでした。

これは、昨年ホタテ漁において、その無酸素水域の形成で大被害を起こした陸奥湾とも大きく異なる特徴ということができます。

盛川からの栄養が、その川幅とほぼ同じで大船渡湾に流入し、緩やかに湾口に向かって流れていくのです。また、湾口からは、反対方向に潮の干満差で海水が流入し、これらが大船渡湾で混じりあうのです。

さらに、風は、大船渡湾の湾口から湾奥の方向、すなわち、南北の方向に常に吹きやすく、それに従って、その方向に流動が起きやすいのです。

それから湾内の船の運航も、当然のことながら、これと同じ方向に航行しますので、これも南北方向の流動に一役を果たしているのです。

こうして考えますと、大船渡湾の浅くて細長い地形、海底の条件が、いかに優れた魚場づくりに貢献しているかがよくおわかりになると思います(つづく)。

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大船渡湾、筆者撮影、2011年11月13日。