大船渡湾の海底には、至ることろにヘドロの堆積がありました.

しかし,このヘドロの堆積が広島湾や陸奥湾のような無酸素水域の大規模な形成をもたらすことになっていませんでした。

それは、大船渡湾が優れた地理的および海洋環境を有していることが影響しています。

さらに、大津波で海底のヘドロが巻き上げられて陸地に運搬されたことも海の浄化に寄与したようです。

安定した河川水の流入、流入栄養塩が極端に多くない、湾内の流動が可能な細長くて浅い地形、湾口防波堤の破壊により外海潮の流出入の増加などが影響して、水産養殖漁が成り立つ海を維持しているのです。

津波直後は、海底ヘドロの巻き上げに伴ってある種の海毒が発生し、カキなどの魚介物の採取と販売が禁止されていましたが、それも数カ月で治まって解除されました。

それから、カキは、大船渡湾の東側中央部の蛸の浦地区に、わずかな筏と稚貝が残っていて、それを共同で養殖することになっていました。

カキ筏のほぼすべてが流され、そして船もなくしていましたので、この地区に、残ったカキを吊るして共同で育てるしかなかったのです。

そこで、このカキ筏の近くに、マイクロバブル発生装置を8月3日に104機を設置し、今日まで、その養殖を支援してきました。

そして、8月、9月と、そのマイクロバブル効果を観察してきました。

最初の山場は、最高温を迎える9月でした。

ご周知のように、カキなど2枚貝は、春から夏にかけて産卵し、水温が18℃以上になると放卵を開始します。

これは、生物にとって、自らの命の次に大切なことが子孫を残す行為なのです。

しかし、ここで大きな問題となっていることが、自らの身体を十分に成長させないままに産卵してしまい、結果的に自らの体を弱くし、産む卵も弱くして、いわゆる虚弱体質の卵を放ってしまうようになるのです。

私は、この虚弱体質、いわゆる未熟児産卵を行う二枚貝を、広島、三重、北海道など全国各地で観てきました。

これは、生物としての二枚貝が、まともに成長していない、すなわち成長阻害要素を有していることを意味していました。

ところが、この阻害に真正面から立ち向かってきたのがマイクロバブルでした。

これは、この生物としての未熟児傾向を改善し、本来の成長を遂げた後に産卵を促すという、現在起きていることと真反対の作用を引き出すことでした。

昔のカキ、アコヤガイを知っている彼らにとって、これらの改善はとても重要なことでしたので、マイクロバブルでそれができるかどうか、ここに最大の関心事の一つがあったのでした。

彼らの合言葉は、「昔のカキ、昔のアコヤガイを復活させる!」でした。

この経験を踏まえていましたから、当然のことながら、大船渡でも、この「昔のカキを復活できるのではないか、これが密かな願いであり、狙いであったのでした。

ですから、9月の海水の最高温を過ぎるまで、この産卵、放卵の状況を詳しく現地観察することを非常に重要だと考えていました。

しかし、この観察において、じつは不利なことがありました。それは、マイクロバブルの供給開始が8月3日と、非常に遅れたことでした。

広島湾などでは、すでに5月の時点でマイクロバブルの供給が開始されていましたので、約3カ月の遅れが存在していたのです。

この遅れがどう影響するか、そのことも考慮しなければならなかったのです(つづく)。

DSCN0949