昨日の早朝散歩の帰りに、災難が起きた現場に立ち寄りました。それは、事故原因を解明するためでした。

「なにか、小石があったのか、それとも道路の一部が盛り上がっていたのか、なにか原因があるはずだ」

科学者として、その究明をしたいと思うことは自然のことです。その現場は、道路に面した公園の入り口からすぐで、そこから3mほどでウォーキング用の道に合流します。

昨日は、その反対側から、この現場に向かいましたので、このウォーキング用の道を辿って、「なぜ、あのように派手に転んだのか」を考えながら、その現場に接近していきました。

その途中では、足元の歩道の状態ばかりを眺めていましたので、ここが非常に凹凸があって傷んでいることを初めて知りました。

「こんなに傷んでいては・・・・」

こう思いながら、その問題の現場に行って吃驚しました。なんと、高さ約10cm、長さ1mの木の根が道路の上に乗り出しているではありませんか。

しかも、ご丁寧に、これが2本も20cm間隔で進行方向に横断しているのですから、これでは転ばないわけがない、とすぐに納得させていただきました。

この道は、それこそ何百回と通っているにもかかわらず、このように木の根が道路上に乗り出していることには少しも気がつきませんでした。

こうして考えますと、世の中は知らないことだらけで、普通には知らないことを知ることが専門家になることであることを改めて体験させていただきました。

「あれだったら、転ぶのも無理はない。原因がわかって清々した。今度は、このことを学生どもにどういうか、その知恵を絞らねばならない」

こう思いながら、なんだかおかしくなって笑みを浮かべながら帰りました。

例によって、前置きが長くなりました。その階段の3段目の話に入りましょう。

それは、いわずと知れた東日本大震災復興支援のために行っている実験のことです。

前回は、そのカキが産卵から放卵へ向かうのか、それとも産卵から身入りへ向かうのか、この岐路にマイクロバブル技術が関係していることを明らかにしました。

このいずれかは、その後のカキの成長に重要な影響を与えます。前者、すなわち、放卵を行う、これが日本中のカキにおいて起こっていることです。

しかも、それが成長の有無と関係なしに起こっていますので、未熟児の小さなカキでさえ、産卵から放卵へ向かう、これが普通に起こっているのです。

そうなると、抱卵後は、そっくりそのまま卵が無くなりますので、カキの身体はすっかり瘠せ衰えた状態になります。これが、よくいわれる「水ガキ」状態なのです。

この水ガキ状態では、そのまま出荷できない、出荷しても正規の価格で買ってもらえない、美味しくないなどの問題があり、出荷の時期を迎えても2、3カ月、その出荷を控えるところもあるほどです。

だれしも、白くて膨らんだプリンプリンのカキを育てたい、売りたい、そして食べたいと思っているはずですが、そのようなカキはなかなか生産されない、これが実情なのです。

しかも、産卵から抱卵までは、カキとして体力を消耗しますので、すぐに元気がなくなり、なんとか溜めていた体力(グリコーゲン)を消耗して夏を乗り切る、これで精一杯になるのです。

ですから、身体の色も色つやもよくなく、どちらかといえば黄褐色になり、その艶もなくなってしまい、味も落ちる、これがほとんどのカキなのです。

このカキの常識に反し、産卵した卵を放卵させずに、そのまま身入りさせる、これが重要であり、それを可能としたカキは、それこそ立派に育ってプリンプリンになっていくのです。

この産卵制御がマイクロバブルで起こることを最初に教えてくれたのは、広島江田島湾でのカキ漁師Tさんでした。

「先生、カキが放卵せずに、身入りに向かっているでー、これが昔のカキ、若ガキじゃー」

この産卵制御によるカキづくりを志向した方が、被災地の東北地方にもおられました。かつて岩手県や宮城県でかなり手広くカキの販売を行っていたMさんでした。

「Mさん、大変なことが起きましたよ。産卵のまま、放卵せずに、身入りへ向かいましたよ!」

こういうとMさんは、それこそ腰を抜かしたように吃驚されていました。

「先生、それこそ、私たちが求めていた『バージンオイスター』ですよ。これは、すごいことになりましたね」

104機のマイクロバブル発生装置から発生したマイクロバブルが、カキの本質的な成長を促し、「産卵から身入り」へと新たなルートへ向かわせたのでした。

この確認を行うために、9月初旬、9月末、そして11月中旬と現地調査を密に行ってきました。

正確に、そして科学的にいえば、、産卵していることを確かめ、その一部がわずかに抱卵するか、そのほとんどが放卵せずに身入りへと向かったという素晴らしい結果を得たのでした。

マイクロバブルの発生開始が8月初めでしたので、おそらく、もう1ヵ月遅れていたら、このような産卵制御はできなかったと思いますので、ギリギリの状態での開始だったといえるでしょう。

ですから、現地のカキ漁師のみなさんが唸るほどの立派なカキが生まれたのであり、その初めての産卵制御カキ、すなわちマイクロバブル育ちのカキが大船渡湾で出現することになったのです。

これは、いわば大船渡湾の海と、そこに住むカキを、すなわち自然を制御したことであり、その結果として新しいカキを出現させたことでもありますので、これから、みなさんが、どのように、それを理解するか、その受容と普及の問題が出現してくるはずです。

その意味で、大船渡湾に設置したマイクロバブル発生装置は、「わらしべ王子」に則していえば、この「マイクロバブル育ちのカキ」に交換されたと考えてよいことになります。

この物語では、母が大切にせよといった「わら」が「味噌」に交換されるのですが、この場合は、「マイクロバブル」が「カキ」に交換されたことになります。

周知のように、「味噌」は「わら」よりも価値があります。これと同じで、「マイクロバブル育ちのカキ」は「マイクロバブル」よりも価値が高いといえます。

問題は、それがどの程度高いか、それをどう評価するかですが、それは、それこそ、現地のみなさんやカキを賞味するみなさん方によって決められることだと思います。

さて、マイクロバブル育ちのカキの特徴を実際の写真を示して紹介させていただくことにしましょう。

まずは、殻長12cmのマイクロバブルカキをじっくり眺めてみてください。もちろん、このようなカキを観るのも食べるのは、私も初めてのことです(つづく)。

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殻長12cm、大船渡湾におけるマイクロバブル育ちのカキです(2011年11月15日、YO氏撮影)