最近の講演では、その締めくくりに、この図面をよく用いることにしています。これは、長岡技術科学大学の新原学長が、学生の前で講演をされたときに黒板に書かれた図面です。
だれでも、時間をかけて勉強をすれば、その道の専門家になり、博識を得ることができます。学者の場合は、論文を書いて博士にもなれます。
しかし、その道に留まっていては、イノベーションは起こせないというのです。
そして、イノベーションに至るには、図中の直観(intuition)と発明(invention)という2つの過程が存在すると強調されているのです。
新原先生は、この第1過程の重要性をとくに指摘されていましたが、これを理解したのが、『日本沈没』を読まれた時でした。
このなかで、田所雄介博士が登場し、日本沈没を予測し、数百万人の命を救ったと時の総理にいわしめたのでした。
この田所博士が、総理の命を密かに受けて日本沈没に関する「D-1計画」を実施するにあたり、そのために、ある重要人物が、彼の面接試験を行うシーンがあります。
時の総理に信頼されている老人ですから、立派な方で、次のように田所博士に尋ねます。
「学者にとって大切なものは何ですか?」
田所博士は、即座に答えました。
「鋭く、大きなカンだ!」
「そのカンとは何かな?」
この質問には、その場に持っていた新聞を破り、それを目の前で示しながら、「ヴェゲナーの大陸移動説」をわかりやすく説明しました。
「このように、新聞の破れたところは完全に一致します。大陸もそうだったのです。
しかし、それを見つけたヴェゲナーの説は世の中に受け入れられず、彼は失意のうちに死んでしまいました。
ところが、この大陸移動説を疑う者はだれ一人としていません。このように、だれもが認める考えを生み出すのが、『鋭く、大きなカン』である」
これを聞いて、この老人は、田所博士のことを信用し、時の山本総理に、彼は「たしかな学者である」と進言したのでした。
そして、田所博士は、日本沈没を予測し、多くの人々を救ったのでした。
新原先生は、この田所博士の言葉から、上記の直観の重要性にひらめいたのでした。
この「鋭く、大きな直感」のことをいうと、講演を聞かれた方々が大いに喜ばれるのです。
「先生、あの直観の話がよかった!」
と、いろいろな方々からいわれるので、この理解が大切であるという時代が来たのだと思うようになりました。
おそらく、これからますます重要になる言葉であり、概念であると思われます。
そこで、この「鋭く、大きな直観」をどのようにしたら身につけることができるか、これが大きな問題です。
これについて、新原先生は、「ひたすら粘り強く考えろ!」というのです。可能な限り、それを考え抜く機会をたくさん持って、時間をかけてもよいから、考え続けることが大切で、それを続けていると必ず答えが見つかるのだそうです。
この新原理論を耳にして、「はっ」と気付きました。「そうか、粘って粘って、考え続ければよいのか」と思いました。
以来、この直観(intuition)をどのように発揮できるようになるか、この課題をひたすら追求することにしました。
いわば、直観の鋭さ、大きさを磨く修練の重要性を認識したといいましょうか、何か考えるときに、常にそれを意識することを心がけました。
しかし、それを実践的に十分に身につけるまでには至っておらず、まだまだ修業の最中であるといえます。
人の成長というのは、牛のように、のろのろとしているのですね(つづく)。
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