大きな中庭を挟んで、前に事務所、後ろに住居部分を設ける、そして、中庭は壁で囲む、この基本プランを示したことで、山中さんの建築家としての触手が動いたようでした。

「大分県にはオープンネットの知り合いがいない、米子からはかなり離れていて遠い、この不利な条件も、山中さんだったら、なんとかなるのではないですか?

きっと、乗り越えていただけると思います。よろしくお願いいたします」

こう説得して、最後には、山中さんに、快く建築設計の仕事を引き受けていただくことになりました。

何回かのやり取りを行ってから、山中さんと直に協議することになりました。

ここで、次のことが明確になりました。

①土地の南側を会社事務所(50㎡)とし、中庭(50㎡)を挟んで住居部分を接合する。

②事務所部分は1回平屋とし、住居部分は2階建てとする。この両者を西側で接合し、その部分に玄関や水回り部分を配置する。これによって、どこにも光が差し込み、風が通る住居とする。

③中庭はタイル敷きとし、その東西を住居か塀で囲み、各種実験やコンサートができる空間とする。

④風呂は従来の長四角の風呂とせず、扇型の湯船に新たなマイクロバブル風呂装置を配備する。

こうして、山中さんも初めてという、「屋外にリビングがある家」の基本設計が進展していきましたが、ここで、山中さんの脳裏には、ある心配事が徐々に膨らんでいました。

⑤木材は宮崎の杉、その組み立てにはAPS工法という特殊な金具を用いた新しい工法を用いる。また、床材には桜を用いる。

⑥外壁は、鹿児島のシラスを原材料とする「そとん壁」にする。内装は抗菌の「しっくい壁」、断熱は最高級の「サーモウール」を採用する。

⑦屋根は軽い金属製とし、基礎は重くして、十分にコンクリートを入れる(後に、通常の住宅の2倍のコンクリート基礎を入れたとのことであった)。

このように、⑤~⑦においても、山中さんにとっては初めての試みがあり、いずれも最適で最高の工法が適用されようとしたことでした。

ここで、その心配事が頭をもたげてくるのですが、それは費用のことでした。山中さんも「恐くなるほどのプラン」だったようで、その心配が私どもの頭に過っていました。

そこで、実際に、見積もりを取っていただくことにしました。予算オーバーであれば仕方がない、こう割り切っていました。

ところが、思わぬことが起こりました。

ここで、オープンシステムの特徴がいかんなく発揮されたようでした。

山中さんは、独自に大分市杵築市の大工の運乗さんを見出し、新たなオープンシステムの家づくりに参加するチームを結成し、それらの方々に見積もり依頼を出されました。

「先生、予算内に収まります。収まるどころか、安くなりました。中庭のタイルも安くて良いのがありました」

と、喜んで報告してきた山中さんの声が弾んでいました。

私も、この報告を無条件に喜ぶとともに安心しました。さすが、分離発注のオープンシステムの本領発揮というところでしょうか、まざまざと威力を見せ付けられた瞬間でもありました。

さて、ベテランの山中さんにとっても意外で初めてのことが、なぜ実現したのでしょうか? ここにも、必要で必然の運乗さんらとの出会いがあったようです。

(つづく)

IMG_6944

APS工法によって組み立てられた内部(山中省吾さん提供)