建築家・オープンネット代表の山中省吾さんの「運命的出会い」は、私たちだけに留まらず、大工の運乗さんほか、「屋外にリビングがある家」の建築に携わる方々ともあったようです。

当初、建築依頼を行った時点では、近くにオープンネットの建築家の会員や知り合いがいなかったので、新たに大工さんや左官屋さん、さらには、それらの現地管理を行う人々を探す必要がありました。

山中さんがいう「遠隔地でのオープンネット」という意味は、ここにあり、それを担う人々を開拓することも含まれていました。

私の方は、「山中さんだったら何とかなるでしょう」というだけですが、当の本人は、それを責任を持ってこなし、やり遂げる能力を持った人を探し、動いていただかねばなりませので、これはなかなか大変な仕事といえます。

その大変な仕事が、運乗さんという、、名前も素敵な大工さんとのめぐり合い、すなわち「運命的出会い」によって実現されたのですから、これは、どこにでもある話ではないようです。

出会いとは、それぞれが互いの立場や考えを知り、認め合うことから始まります。山中さんは、この人だったらオープンネットの仕事ができるかもしれないと思い、一方に運乗さんは、斬新な山中さんの建築観に驚き、そのプランに新鮮味を感じたそうでした。

こうして、「屋外にリビングがある家」のプランと建築現場の技術が融合し、次々に発展していったのだと思います。

私も、その現場に行って、運乗さんに直接尋ねてみました。

「先ほどは、みなさんが、この家を変わった家だと仰っていましたが、運乗さんはどう思われますか?」

「私も、そう思います」

「といいますと、具体的には?」

「この家には、『小壁』がほとんどありません」

「『小壁?』、なるほど、『小さい壁』のことですか。そういえば、その『小壁』がありませんね」

可能な限り、オープンスペースにし、壁は周囲にしかないようにしたからでした。

それから、宮崎の杉材木の組み立てに利用したAPS工法(特殊な金属接合道具を用いた建築法のこと)、サーモウールを用いた断熱材、その外壁に「そとん壁」、内側には、ホタテ粉末が入った「しっくい壁」など山中さんの建築家としての新工法の適用が、運乗さんほかに小気味よく伝わり、その施工がなされていきました。

建築家の山中さんにしてみれば、これらの新しい建築工法を、大工さんや左官屋さんが十分にこなすことが必要条件であり、それができるかどうかの見極めも必要なことでした。

見知らぬ土地で、オープンネットによる分離発注における家づくりにおいて、もっとも必要なことは、これらの大工さん、左官屋さんを探すことであり、その実践を遂行することでした。

この必要において、山中さんと運乗さんの「運命的出会い」が起きたようでした。初対面の運乗さんは、山中さんの設計思想、具体的建築法に驚き、その建築によって実践的に学んでいったことを強く語られていました。

一方、山中さんは、これらの大工さん、左官屋さんの段取りや仕事ぶりを見られて、かなり評価するようになり、この運命的出会いが相乗的に発展していったようでした。

こうなると、そのほとんどが好循環サイクルになっていきますので、少々のことではそれが崩れてしまうことはありません。むしろ、どんどん発展していくのです。

私にとっても、それはとてもうれしいことであり、みなさんの覇気がどんどん伝わってきて、徐々に私も、その渦の中に飲み込まれていきました。

よい家とは、このようにして出来上がっていくのですね。

先日の訪問の際には、近所の方々が「いったい、何ができるのか」と見学に来られる方が少なくなかったそうですが、その伝聞が広まったのでしょうか、地元の市長さんや商工会からの問い合わせや期待が寄せられるようになりました。

こうして、「運命的出会い」というものは幾重にも広がって、本物としての試練を受けていくのですね(つづく)。

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