広島カキ養殖の現場で学ぶ

 ところが、1998年に広島湾でカキ養殖が新種のプランクトンによって45億円もの被害を受けました。

その翌年に、「お前の技術で何とかせよ!」と大学時代の友人から依頼されました。

これにカキ漁師の依頼も加わり、カキ用のマイクロバブル発生装置を新たに開発し、赤潮に苦しんでいた養殖現場に直接導入することにしました(図-2)。

広島カキMB小林

図-2 広島カキ筏で発生しているマイクロバブル(朝日新聞小林裕幸記者撮影)

そしたら、カキにマイクロバブルを与えると、通常の状態よりも約3倍も大きく口を開けているではないですか(図-3)。

「カキが反応している、これは何かとても重要なことが起きている!」と直感しました。これが、マイクロバブルの「生理活性作用」を発見した瞬間でした。

また、その作用の発見が間違いなかったことは、その後のカキの急成長や血流促進の実験結果によって確かめられました。

今振り返れば、広島江田島湾の夕暮れに、カキ筏の下の大きく成長したカキの姿を一人で観察し、「マイクロバブルには、こんな力があったのか」と、心温かくなったことを思い出します。

こうして、それまでのカキ養殖期間の半減(通し替え後5カ月)、1年物のカキ(若ガキ)の復活、夏ガキ(真ガキ)の史上初の出荷という新たな養殖法が実践的に開発されることになり、これらがNHKテレビ「ニュース7」で3回連続放映され、少なくない反響を得ることができました。

その後、北海道噴火湾におけるホタテ養殖、三重県英虞湾における真珠養殖へと取り組みが拡大し、いずれも大量斃死という最悪の事態に窮地に陥っていた漁師のみなさんを、マイクロバブル技術で救うことができました。

これらにおいては、魚場が衰退し、海洋生物としては最悪の事態である「大量斃死」が頻繁に起こる中で、それこそ「待ったなし」の状態という深刻な事態をどう克服するかが問われました。

まさに、新技術としてのマイクロバブルの真価が実践的に試された事例でした。

同時に、この技術開発の成果を高専の現場や地域社会にどう生かすかも深く問われることになりました。

おかげで、本マイクロバブル発生装置は、世界32カ国の特許取得を実現し、その一連の構築を行うことができました。

また、2006年と2007年には、この技術開発が認められ、日本混相流学会から「技術賞」、日本流体力学会から「流体力学技術賞」を受けることができました。

さらに、本マイクロバブル発生技術は、経済産業省から山口県周南市の「地域産業資源」としての認定を受けました。周南市にとっては、「石油精製技術」、「新幹線技術」に続いて3番目の認定となりました。

本校の教育目標は、「世界に通用する実践的で開発型の技術者の養成をめざす」ことにあり、初代「テクノ・リフレッシュ教育センター長」に就任したことも影響して、この目標を実現することをめざしました。

つづく

カキ開口1

図-3 マイクロバブルで開口したカキ(筆者撮影)