司馬遼太郎作『世に棲む日日』全4巻を読了しました.よい作品には必ず余韻があり,これも,そのひとつとなりました.
しかし,私は,この読書開始から,この歴史小説のタイトルを,なぜ,『世に棲む日日』としたのかが気になり,それがよくわからないままで読み進めていました.
物語の前半が吉田松陰,後半が高杉晋作を中心とする展開になっていました.
最初の動機は,吉田松陰のことを勉強することにありましたが,この小説では,高杉晋作を語るために,その師匠である吉田松陰について言及するという事実上の構成になっています..
また,作者は,吉田松陰を「思想家」とし,その弟子の高杉晋作を「革命家」として位置づけ,それぞれの役割を明確にした記述がなされていて,高杉の行動のなかに松陰の考えが常に出てきていました.
簡単にいえば,吉田松陰の「思想」を高杉晋作が「革命として現実化」させた過程を描いた,これが,この小説の全体像といえるのではないでしょうか.
それゆえに,「世に棲む日日」という主題は,吉田松陰よりも高杉晋作との関係においてあり,最後の最後のあたりで,それが示唆されるというシナリオになっていました.
作者司馬遼太郎は,その「文庫本あとがき」のなかで,松陰の思想は,「松陰という稀有な個人においてのみ電撃性を帯びるものであり,他には通用しがたいものである」とし,「動かないものは,個性もしくは思想的体質あるいはそれらを総合しての人間だけである」と思い決めています.
そして,本書の動機について,「人間が人間に影響をあたえるということは,人間のどういう部分によるものかを,松陰において考えてみたかった」とし,「そして後半は,影響の受けてのひとりである高杉晋作という若者について書いた」と述べています.
さらに,「『世に棲む日日』という題は,高杉の半ばふざけたような辞世の,それも感じようによっては秋の空の下に白い河原の石が磊々ところがっている印象からそれをつけた」と説明されています.
この辞世の句とは,
おもしろき こともなき世を
おもしろく
であり,ここまで書いて力尽き,筆を落としてしまったそうです.このとき,晋作を看病していた望東尼が,この晋作の尻切れとんぼの句に,下の句をつけてやらねばならないと思い,
すみなすものは,心なりけり
と書き,これを晋作に見せると,晋作は,
「・・・・面白いのう」
と微笑し,ほどなく脈が絶えたそうです.
ここまできて,ようやく,本書の題目の意味を理解し,「なるほど」と思ったしだいです.
晋作にしてみれば,「本来おもしろからぬ世の中をずいぶんおもしろくすごしてきた」ことから,このような表現を思いついたのでしょう.
私も,度々の講演の締めくくりとして,この晋作の句を採用してきましたので,そのことを感謝するとともに,これからもより大切に使用させていただきたいと思います.
そこで,思想家吉田松陰,革命家高杉晋作,作家司馬遼太郎の精神をどう生かせばよいか,そのことをこれから,しっかり考えていく必要があるように思いました.
おもしろき こともなき世を おもしろく
すみなすものは,マイクロバブルなりけり
つづく
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