シャーロック・ホームズの特徴は,その科学的な目と精神にあります.物語の冒頭では,ホームズが化学実験を行っているシーンがよくあります.
また,刺青についての論文を書いたこともあり,彼の推理の源には,この科学的精神が宿っています.
これに関連して,相棒のワトソン教授との間で,ちょっとした面白いやり取りがありましたので,紹介します(『シャーロック・ホームズの冒険(第9巻,修道院屋敷)』).
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S:ホプキンズ警部か
W:今まで7回呼び出されてるが,難解な事件ばかり
S:だが,その全体を記録しているだろ.君は事件を選ぶ能力がある.
W:どうも
S:それによって君の悪い癖も補われている.君は事件を科学的にとらえずー.物語に仕立てる傾向がある.だから重要な実証の部分が欠けているのだ.
W:自分で書けよ.
S:もちろん書くつもりだよ引退してからね.今回は殺人事件だ.
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この「科学的実証」,これがホームズの謎解きと推理の基本になっています.
ホームズは,現場での証言を聞きながら,そこでの状況を鋭く観察し,事実を確かめてながら推理を発展させ,すぐに,その謎解きを遂行していきます.
これこそ,早業(はやわざ),離れ業(はなれわざ)で,その謎解きとともに犯人を見つけ出してしまうのです.
その後は,彼の推理に従って物語が進み,最後には,そのすべての謎解きがだれの目にも明らかになっていきます.
そして,最後の顛末の後に,毎回,「名せりふ」を残します.これが余韻を惹き,終わった後も残っていきます.
毎回,決まって,このパターンになるのですが,視聴者の私たちは,「さすが,ホームズ!」と感心してしまい,「ああ,おもしろかった!」と思わず,満足してしまいます.
そこで,上述の巻の最後,すなわち事件を解決させたあとのワトソン教授と「やり取り」を示しましょう.
S:形式にとらわれすぎた
W:形式こそ社会だぞ
S:礼節が人を作る
W:君の発想には脱帽するよ
ここでのホームズがいう「礼節」とは,形式よりも大切なことであり,形式にとらわれずに,人を救うことでした.
ワトソン教授は,その人間味あふれるホームズの礼節を重んじた決断に脱帽して,そういったのでした.
「ホームズ,あなたはやさしくて,本当に人間らしい.すばらしい!」
彼によって,二人が救われた物語でした.
つづく
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