「政之助、ほんまにわしでよいのかのぉー。わしは大罪人じゃー、それでよいのか?」

「寅次郎、お主しかおらんのじゃ、いや、お主が一番なんじゃ。後はわしにまかしてくれ、なんとかするから、どうじゃ、寅次郎!」

「それに、どうやってペリーの船に乗り込むのじゃー? ペリーは、今どこにいるんじゃー?」

「ペリーは、琉球と友好条約を結んだ帰りに、こちらに寄るといって来ているんじゃー」

「そうか、琉球とも条約を結ぶのか。清国、琉球、日本と、アメリカは積極的な動きを見せちょるのぉー。これからは、諸外国の動きをよく見ておかんといかんのぉー」

「その通りじゃ、だから、お主の役割が重要なんじゃー、頼むぞ、寅次郎!」

そういわれても、寅次郎は、半信半疑であった。

「ーーー 大罪人のわしが、アメリカへ行く、これは大変なことになるなぁー」

「後は、わしにまかせてくれー。これからは、高杉がお主との連絡係りになるから、そのつもりで、よろしく頼む・・・・」

こういって周布政之助は去っていった。

入れ替わりに、高杉が寅之助の前に現れた。

「松陰先生、高杉晋作です。周布様から密命を受けてやってきました。これから、下関に向かいます。彦島沖に停泊している船まで、先生をお連れするのが私の役目です。どうか、よろしくお願いいたします」

「高杉君、ありがとう。お世話になります」

二人は挨拶もそこそこに、萩から下関に向かう夜道をひたひたと歩き始めた。

満天の星空の下、月明かりが二人の旅路を照らしていた。

「先生、よく決心されましたね。わしは、先生の決断に心を動かされました!」

「ありがとう、これも、政之助のおかげじゃ、持つべきものは友じゃのぉー、それに、そ、そ・・・・・」

寅之助は、「そうせい公」といい始めて、慌てて口をつぐんだ。おそらく、高杉には、そうせい公の思いは伝えられていないだろう、後で高杉に迷惑をかけてはいけない、という思いが過った。

二人の足取りは軽く、長戸から湯谷湾に向かっていた。この地域は、昔から漁業が盛んで、海を通じての出入りの多いところであった。

いつのまにか、楊貴妃が流れ着いて、晩年はこの地で過ごしたという言い伝えもあり、楊貴妃の墓まで作られていた。

ここは、昔ら豊かな土地だったのだ。この豊かな故郷を外国に渡してはならぬ、そのために、今はしっかり勉強して、かれらの進んだ社会システムや科学技術を学んでおく必要がある。

そう思うと、寅次郎の足取りはますます速くなっていた。

つづく

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