もう一つは、鱧の話です。各地の講演で頻繁に、この話をさせていただいたこともあり、これは、かなり有名になりました。

先に紹介させていただいた美容家のKさんからも、「うちにも鱧がいる」と笑っていわれましたが、単に魚だけには留まらない「おもしろい話」になっています。

さて、この話は、数年前に、山口県防府市にある野島で働く鱧漁師から直接聞いたことが「事の始まり」です。

波止場の民宿での交流会で、ある漁師さんが鱧に噛まれた経験談を語り始めました。それは、朝獲った鱧を籠のなかに入れて運んでいるときに起こりました。

籠の中の鱧が、その漁師の右腕に噛みついたのです。

このとき、彼は、「3回噛まれる」までじっと我慢したことを、しきりに強調していました。

なぜなら、「鱧は3回しか噛まないので、3回噛まれるまで我慢せよ」が彼らの合言葉になっているからでした。

それを我慢して、手を放したそうですが、それをせずに、手を抜くと鱧の歯で彼の手の筋肉はズタズタになり、漁師としては使えない手になってしまうことを心配したからでした。

そして、私も、その鱧に噛まれた傷跡を見せていただきましたが、それは、真に凄まじいものでした。

それから、一同は、鱧は獰猛で怖い、しかし食べたら美味しいという話で非常に盛り上がりました。

ところが、この獰猛の話が尽きたころに、不思議な展開がなされました。

それは、その獰猛なはずの鱧がマイクロバブルでおとなしくなり、手でつかむことができたというものでした。

私も、「えっ!」と思うほどの吃驚で、それは本当ですかと聞き返すほどでした。

翌朝、昨夜の話は本当だろうかと思いながら、まずは獰猛な方の鱧を見に行きました。船の生簀に「獲れたて」の鱧が入っていました。そこを除くと、鱧が飛びかからんばかりに向かってきました。

私も、思わず危険を感じて顔を退けずらすほどで、この獰猛さに、たじたじとなりましたが、よく考えてみれば、鱧にとっては食うか食わるかの身の危険を感じているわけで、鱧の気持ちになれば無理はないと思い返しました。

漁師に聞くと、傷ついた鱧ほど獰猛で、すぐに死んでしまうとのことでした。

次は、マイクロバブルが与えられた鱧の観察ですが、これは、行きつけの鮨屋(周南市久米の「正喜越」)の生簀に鱧が入れられ、マイクロバブルが供給されていますので、その鱧を竿でつついてみました。

鱧は、その攻撃に少しも動じません。

今度は、その竿で、身体をすくうと、「なされるがまま」で少しも過激に反応しません。

そうか、このようにおとなしくなると手でつかめるのだなと思いました。

次に、大きな透明水槽のなかで、同じくマイクロバブルが与えられた場合の鱧を観察しました。

気持ち良さそうに、ゆっくりと身体をくねらせていました、いやに大きなと思ってよくみると、「尾びれ」と「背びれ」がピンと伸びて、身体の身の部分と合わせると、その大きさが推進方向に約3倍になって大きく見えていることに気付きました。

鱧が、「ここちよく」泳ぐ状態とは、このようなことかと思いを新たにしました。

この2つの鱧を目のあたりにして、この違いは何か、どうして、マイクロバブルで鱧が借りてきた猫のようにおとなしくなるのか、この原因解明を行うことが重要になりました。

この解明には、「重要な何か」があるはずだ、この謎解きをどう行うか、またしても、難問に直面し、思案に明け暮れることになりました。


 左は、マイクロバブルを供給された鱧(尾ひれがまっすぐ立っている)。