さすがに3連敗をしてしまったMさん、意気消沈の日々が続きました。親譲りの寡

黙がますます高じ、Kさんとよく似てきました。親子だから、そうなるのも不思議では

ありません。しかし、その間も黙々とマイクロバブルだけは与え続けました。試験的

にサンプルを抽出すると、みごとな真珠ができつつあることが徐々に明らかにな

り、マイクロバブルを与えることにもより力が入ったのだと思います。

 「手塩にかけた」とはこのことかと思いましたが、かれらはよく働きます。朝は、4時

起き、朝食は菓子パン一つと牛乳です。昼は、少し昼寝して、夕方まで働き続けま

す。ですから、アコヤガイは、かれらの家族の一部のようになっています。

 Kさんの仲間にSさんがおられましたが、この方は、盆と正月に1日づつ休むだけ

で、年中働くとのことで、「勤勉の権化」のような方でした。

 さて、このシリーズの冒頭で少し紹介しかけましたが、このMさんの3連敗に関係

して、私には、少々苦い思い出があります。

 親子の闘いの事が結して、少し時が経過した頃だったと思いますが、いまでも、

そのときの情景をしっかり思い出すことができます。

 いつものように、海岸にあるKさんの工場に向かう森の中で、Mさんと次の会話を

行いました。

 「星野監督になったので、今年の阪神は優勝できますよ!」

 「いくら星野監督でも、それは無理ですよ。監督が一人変わっても、選手が変わる

わけでもなく、優勝なんて無理に決まってますよ!」

 無碍(むげ)もなく、こういうと、Mさんは、ますますムキになりました。

 「いや、星野だったら、ぜったいやる、先生、優勝するかどうか賭けますか?」

 こうなったら、売り言葉に買い言葉で、よせばよいのに、かれの挑発に乗っかって

しまいました。こちらは、絶対に優勝なんかできないと思っていましたので、つい、

軽く受けてしまったのがよくありませんでした。

 「そしたら、阪神が優勝したら、パソコンを買ってくれますか?」

 「ああ、いいですよ。私が勝ったら、真珠の品評会に出した優勝した真珠でももら

いましょうか」

 真珠をもらう方がはるかに得ですが、その前に、彼の出した真珠がコンテストで優

勝するかどうかが問題でした。しかも、これは弾みですから、軽い冗談のつもりで

いったことでした。たとえ優勝しても、その真珠をもらえるはずもないと思っていまし

た。これが大人の判断であり、常識というものでした。

 ところが、私にとっては、悪夢のような出来事が起こりました。なんと、その年、

「星野阪神」が優勝してしまったのです。

 Mさんには、「優勝しておめでとう」とはいいましたが、「例の賭けのことは忘れて

いるだろう」、「いや、忘れていてほしい」と、ひそかに期待しました。実際は、そうで

はありませんでした。しっかり、覚えていて、約束をはたしてほしい旨のシグナルを

何度も送ってきたのです。

 「そのうち忘れるであろう」と、しばらくは、それを受け流していたのですが、どうも

その意志は強く、そっと、耳打ちまでされました。

 「先生、中古のパソコンでもいいですよ!」

 ここまでいわれ、さすがの私も考え込みました。マイクロバブルで、すこし名が知

れ渡った私ですから、「パソコンごときで汚名を注ぐことになったら、恥ずかしいこ

とだ」と思う反面、どうしてかれに、「中古とはいえ、パソコンを買ってやらねばなら

ないのか」、往生際の悪い私の心は揺れに揺れました。

 じつは、その前に、もうひとつ悪夢のような出来事がありました。これも忘れる事

ができません。

 「浜揚げ」といって、貝の中から真珠を取り出す、めでたい日のことです。NHKの

Oカメラマンと一緒に、これに参加し、真珠を取り出しときの取材を受けました。マイ

クロバブルのおかげで、取り出す真珠はみごとなものばかりで、まさに光り輝いて

いました。うまくいけば、取り出す真珠のほとんどが見事なものばかりですが、逆

に、それを誤れば、ほとんどが「くず珠」として出てくる、まさに天国と地獄ほどの差

となって出てくる瞬間なのです。生物は正直に反応するのです。

 私の連れの一人も、真珠貝を開いて盛んに見事な真珠を取り出していました。そ

れが、ふと目に入り、「それをどうするのか」と尋ねました。そうすると、それを貰っ

て帰るというので、その20数個もあった真珠をすぐに返すようにいいました。かれは

素直に返して来てから、こういいました。

 「研究用に、いくつでも持って帰っていいよといわれていました」

 ここで、今度は私が絶句しました。

 「なぜ、返す前に、それをいわなかったのか」

 こういいかけましたが、もう後の祭りです。ぐっと我慢して、その言葉を押し殺しま

した。「そうであれば、もらっておけばよかった」、それにしても惜しいことをしたと今

でも思っています。

 しかし、どう考えても、「天下の教授(今は、「マイクロバブル博士」ですからなおさ

らのことですが)」がパソコンもプレゼントできないとなると恥ずかしいことになると、

意を決し、中古で申し訳ありませんが、それを送らせていただきました。

 これで、喉につかえていたものがようやく取れました。「やれやれ」でした。

 Mさんは、3連敗のあとに1勝した気分でしょうか、礼状の代わりに、アコヤガイの

貝柱が一袋送れらてきました。

 人生とは、このようなものでしょうか。マイクロバブルのおかげで、私は、たくさん

の「貴重な体得」をしてきたわけですから、「このようなことがあってもよいのだ」と思

い直しました。

 こうして、「マイクロバブル人K2」さんを通じても、マイクロバブルの「重要な何か」

を学ばせていただきました。それは、パソコンや真珠20数個とは比較にならないほ

どの貴重なものでした。真に、ありがとうございました。

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