K先生の南下距離は約1000km、奇しくも、同じ「T高専」に赴任されてきました。

昔、松本清張の「Dの複合」という小説を心驚かせて読んだことがありますが、まさ

に、「Tの複合」となりました。「D」の場合は、「浦島太郎の伝説」ですが、「T」の場

合は、もちろん「マイクロバブル」で、これは、「マイクロバブルの複合」の話といえそ

うです。

時は、2006年春、桜の花が舞散るころでした。K先生は、日本高専学会の会議の

席でちらっと見ただけで、少しも面識はありませんでした。

でも、その先生がT高専に来られるので、歓迎の昼食会をしようということになりま

した。たしか、イタリア料理だったと思いますが、料理が出てくる合間に、話が徐々

に進むようになり、後半は、マイクロバブルの話へと移行し、盛り上がりました。

「えっ! それは何ですか?」

例によって、眼を丸くして尋ねてきました。この時点では、K先生の「新し物好き」、

「好奇心抜群」、「マニアック的性格」などをよく知りませんでしたので、「マイクロバ

ブルの話によく反応するな~」と不思議に思っていました。

「えっ! 空気、つまり小さな泡に、そんな性質があるですか。初めて聞きました」

無理もありません。K先生は文科系の専門の方ですが、それに私どもが初めて見

出したマイクロバブルの特性ですから、初耳であることは当然のことでした。

食事が終わり、あまりにもマイクロバブルの話に花が咲いていたので、先生に、

「それでは今から説明を受けに行きますか?」と尋ねました。話の最後

で、「それがほしい、買うことができますか、買いたい」といい始めたからです。どう

も、マニアは、このような心情になるようですが、その時は、そこまでの分析ができ

ていませんでした。

マイクロバブル発生装置の説明を受け、K先生はますますマイクロバブルが気に

入ったようでした。まだ、この時点では、奥様に会っていませんが、きっと、このよう

に喜び勇んで報告したはずです。

「今日、歓迎会があり、マイクロバブルという面白い泡の話を聞きました。身体に

もよいというので早速注文してきました」

いつもだと、この独断で夫婦喧嘩が始まるところですが、奥さんは、その「マイクロ

バブル」とやらがよく理解できません。いつも買いたいといっている品物とは違うよ

うなのですぐに責めることができません。ここは少し我慢することにしました。

「そのマイクロバブルというものは、何?」

「待ってました」とばかりに、K先生は、昼間に教えていただいたことを、そっくりそ

のまま奥さんに説明し始めました。

「マイクロバブルとは100分の2mm程度の小さな泡のことです。今日、パスタを

御馳走してくださった先生が開発されたもので、今日、それを見てきました。それ

で広島のカキや北海道のホタテを成長させたそうだよ。また、ヒトの身体にもよいら

しく、その先生はお風呂に入れて体調が良くなったといわれていました。その方の

顔の色艶ががよく、これは、あなたにも、きっとよいものだと思いました」

「お肌によい、身体にもよい」といわれ、奥さんは、「怒るに怒れず」から急変し、

「それは良いものを買いましたね」と、ますます身を乗り出して、マイクロバブルに

関心を示しました。

「それは、どんなもの? なぜ、その気泡が身体に良いのですか?お風呂にどの

ように設置するのですか?肌がどうなるの?」

矢継ぎ早に、こう聞かれ、今度はK先生がしどろもどろになりました。なにせ、文

科系ですから、その辺が「にわか勉強」では間に合うはずもありませんでした。

「血流がよくなる、身体ぽかぽかとかいっていたよ、とにかく来てからわかるの

で、それが来るのを待とうよ」

これで一件落着、両方よくわからずじまいで、とにかくマイクロバブルの装置を待

つことで意見が一致しました。K家にとっては、意見の一致は珍しいことでした。

新天地での生活に、新たにマイクロバブルの風呂生活が加わることになりまし

た。

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