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昨日は、島根県の宍道湖(しんじこ)に行ってきました。2年前の豪雨(ごうう)で

宍道湖全体が淡水化(たんすいか)され、ヤマトシジミ(以下、「シジミ」という)が大

量に死んで、その回復がいまだできておらず、不振が続いているとのことでした。

この淡水化について説明しますと、宍道湖は汽水湖(きすいこ)といって、淡水と

海水が両方存在する水域です。淡水のほとんどは川から運ばれ、海水は鳥取県の

中海(なかうみ)から入ってきます。海水の方が重いので、上が淡水、下が海水と重

なったような構造になります。この宍道湖のシジミは、この汽水域に住む貝であり、

塩分が薄くなっても、濃くなっても生育することができません。

また、成長が悪く、昔のような大粒のシジミが少なくなったとのことでした。

今年も、環境の改善はなく、早くも、斃死(へいし、死ぬこと)に至るシジミが出現し

ているとのことでした。例年ですと、海水温が最高になるお盆過ぎから9月にかけ

て、シジミの斃死(へいし)が多いのですが、今年は、早くも、その兆候(ちょうこう、

「きざし」のこと)が現われてきているようで心配されていました。

私が訪れたのは、宍道湖の西側で出雲に近い方でした。湖水はとてもきれいで、

みなさんも「今日はきれいだ」といわれていました。

「このきれいな、そして広大な湖で何が起きているのか、何を病んでいるのか?」

こう思いながら、みなさんが行われている実験地に向かいました。

ここには、私の装置(そうち)が、すでに設置され、実験が開始されていました。

幅1.5m、長さ10mの大きな水槽が並んでいて、その2つで実験がなされていま

した。その一つは、マイクロバブルを与える実験、もう一つは、何もしない実験、こ

れらを比較しようというものでした。

まずは、マイクロバブル発生装置の設置の仕方を直し、各装置からのマイクロバ

ブルの発生状況(はっせいじょうきょう)を確かめることにしました。マイクロバブル

発生装置の数は全部で12機(き)、そのうちの2つが発生していなかったので、確

かめてみると、ホースに砂が詰(つ)まっていたのと、空気ホースにも何かが詰まっ

ていて、それらを改善してからは正常に発生しました。


「ところで、シジミはどこにあるのですか?」

と尋ねると、カゴのなかに砂が入れられ、「そのなかにいる」といわれました。それ

を取り出して見てみると、まず、マイクロバブルの方は、砂の上までシジミが上がっ

てきて、目に見える状態になっていました。ところが、マイクロバブルなしの方は、砂

に埋まったままで、砂を掘らないと出てきませんでした。おそらく、この違いは、マイ

クロバブル水を積極的に吸いこもうとしたことにあるのではないかと思いました。

次に、シジミの殻(から)の長さ(横幅)の計測がなされました。マイクロバブルは1

週間与えられ続けていますので、その成果が出ているはずですが、そのことは、ほ

とんどの漁師のみなさんは知らないので、固唾(かたず)を飲んで、その成果はどう

かと見守っておられました。

まずは、マイクロバブルの方から、カゴに入れられた10個のシジミが計測され、

その値は、すべて14~14.5mmでした。入れる前に13mmのものだけを選んで

入れたとのことですから、明らかに約1mm成長しているというすごい結果になりま

した。

次は、マイクロバブルなしの方ですが、これは、すべて13mm程度で、ほとんど

成長していないことが判明(はんめい)しました。

両方を比較しますと、1週間で1mmの「違(ちが)い」が出たということになりま

す。これを単純計算しますと、1ヶ月で4mm、2か月で8mmとなります。

これまでの宍道湖におけるヤマトシジミの成長の成長は、1年で7mm程度です

から、これは大きな違いになりそうです。通常、シジミの生育期間は4月から11月

の8か月ですので、これを単純比較しますと、およそ、その成長速度が4~5倍違う

ということになります。

もちろん、貝が成長するにつれて、その成長速度は落ちますので、その単純比

較で、そのまま喜ぶわけにはいきませんが、この成長速度は、広島のカキでマイク

ロバブル実験を行ったときの結果とそんなに大きな違いはありません。ですから、

どこまで成長するのか、このまま成長して、巨大なシジミとなるのか、その楽しみが

増えてきたといえるのではないでしょうか。

この結果を見て、漁民のみなさんの顔が明るくなりました。元気のよい、大きなシ

ジミを毎日とりたいのですが、そうはいかず、獲る量も心配しなければならない状況

にあり、明るい話がなかったからです。

私は、この結果を見て、大勢のかれらを前にしてこういいました。

「わずか1週間の結果ですが、これは、大変意味のある結果です。マイクロバブ

ルの効果がうまく発揮されると、1週間でも明確に出てきます。これは明らかに、そ

のケースであり、マイクロバブルの効果といえます。今後に期待が持てますね」

これで、みなさんが「やる気」になったのはもちろんのことでした。


そのみなさん方は、あの広い宍道湖で、長い間営々と仕事を続けてこられまし

た。それが可能だったのは、宍道湖が豊かな自然を維持していたからです。しか

し、残念なことに、その豊かな自然が脅(おびや)かされるようになり、困ってしまい

ました。

その困った状態から抜け出すために、まず、原因を解明しようとします。それがわ

かると対策が立てられると思うからです。ところが、その原因解明が簡単ではなく、

現に、たくさんの労力が払われてきました。ここでは、それらを詳しく評価することは

しません。その対策については、意外と深い検討はなされていないように思いま

す。

私は、今回の結果のように、シジミの事情に則(そく)した対策を考えるのがよい

と思い始めています。つまり、この大規模水槽で、シジミがどんどん育つようになれ

ば、それを基本にして対策を考えることが重要だと思います。これは当たりまえのこ

とのようですが、じつは、そうではない場合が多いのです。

広島のカキ養殖改善に取り組んだときも、「あの広い海で何ができるか」、「そん

な泡だけでよい結果が得られるのですか」といわれました。このときは、私も自信が

なかったのでじっと我慢して取り組むしかなかったのですが、今は少し事情が違い

ます。私も、かなりの数の現場の経験を得ていますので、ここは、「知恵と工夫」の

絞(しぼ)りどころだと思っています。

「シジミが成長すること、これを最優先に考えるべきです。そしてみなさんのシジ

ミ生産額が増え、生活が成り立つことを基本に考えることが大切です」

実験が終わっての会議で、その最後にこのようにいいました。

以上のように、大変、有意義(ゆういぎ)で楽しい宍道湖視察(しさつ)となりまし

た。ただ残念なのは、せっかくここまで来たから、大好物の出雲そばを食べにいっ

たのですが、時間が遅く、どこも閉店で食べることができませんでした。心のこり

は、そのことだけでした。

1週間で1mmの成長、とても小さな成長ですが、みなさんに希望を与えた成長と

なりました。おかげで、みなさんの笑顔(えがお)にも出会うことができました。

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