周知のように、未知の分野における科学技術に関する「新

概念」を導き出すことは容易ではありません。考えに考え、さ

らに考え抜いて、「これで間違いない。こうであるはずだ」とい

う思いが得られるまで考えていきます。これは、その考察を実

行した人であれば理解できることであり、通常の研究者や技

術開発者は、この体験的学習を重ねて自らを洗練化、つまり

修行を重ねていくことを常としています。

ある偉大な学者は、「発見は、それを入れる器を用意したも

のにしか生まれない」といったそうですが、その器を用意する

こととは、その新たな概念の構築法を、それこそ、「寝ても覚め

ても考える」、そしてアイデアが出てくるまで考え抜くことだと思

います。

あるとき、私の研究室にわが国でもトップクラスの大学教授

が来られたことがあります。その時に、マイクロバブル発生装

置の「開発秘話」に関する談義がなされました。

その教授は、自分のところに持ち込まれた装置の開発者の

話を次のように披露されました。

「どうも、その方は、気持ちが良い時にアイデアが浮かぶそ

うです。その時も(彼が閃いたといったとき)、風呂上がりで、

布団に横になって、少し眠くなって気持ちがいいなと感じてい

るときに、その装置のアイデアが浮かんできたそうです」

こう聞きながら、「これはどこかで聞いたような話だな」と思い

ながら、黙って、その次を聞いていました。そして、その次

には、「こういうのかな?」と予想してみました。

「そのときに、私の場合は、非常にきれいなカラー画像が頭

の中に浮かんできます。しかも、それは二次元ではなく三次元

の立体画像なのです。鮮やかな三次元画像ですから、忘れ

ることはありません」

その教授は、こう続けました。

「その時に、かれの頭のなかには、きれいなカラー画像がう

浮かんできたそうです。しかも、その画像は三次元であり、そ

れで装置のアイデアが生まれたというのです」

その教授の言葉は、私の予想とピタリ一致しました。これは、

あまりにも「尋常ではない」話なので、そのことについて真相を

述べざるを得ませんでした。

「それは、私が、その方に話したことです。かれが、私に尋ね

てきましたので、そのカラーの話や三次元の話をしました。い

つのまにか、主人公が入れ替わったのですね」

こういわれ、その教授は唖然とされ、しばらくは、次の言葉を

なくしておられました。

問題は、「カラー」でも、「三次元」でもなく、新たな装置の構

造を思い浮かべることができるかどうかであり、それには、そ

の設計方法を含めて常に考える訓練をすることにあります。

技術の基本には、その機械装置の開発があり、それで花開

くかどうか、広がるかどうかが決まります。ですから、不断に、

その機械装置の開発を考え、そして考え抜くことが必要になる

のです。

この訓練をしていると、それは、丁度将棋や囲碁の棋士が、

一度指した試合を覚えていること、さらには頭の中で将棋を指

すことができるようになること同じであり、それを繰り返してい

ると頭の中にいろいろなことが思い浮かんでくるようになりま

す。しかも、一度思い浮かべることができると、ある時には、そ

れが連鎖反応で起こる場合もあります。そうなると、じつに充

実した精神的日々を過ごすことが可能となります。

そして、この修行を繰り返していると「セレンディピティー」が

高まる事例に出会うこともあるようです。

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