広島カキ養殖の研究は、文字通り、私の人生においても大きな転機となり

ました。K君との会話の続きは、以下のようになりました。

 もうだめかと思うほどに、幾度となく赤潮プランクトンが発生するものの、不

思議とその時には雨が降り、水温が下がってプランクトンが減少したことが何

回もありました。もうないであろうと思い始めたころですが、忘れもしません。広

島大学で土木学会が開催され、その最終日に私も発表する予定でした。

 ところが、運悪く台風の来襲で、学会そのものが中止になってしまいました。

その台風が海をかき混ぜ、そのために危険なプランクトンが異常発生したの

です。その数は、1ccに1000個を超え、これが続くとカキが死に始めるという

危険な状態が発生していました。前年度も、この状態から一気にプランクトン

が増えて、大きな被害が発生しました。

 ですから、その台風一過の後で、そのプランクトンの異常発生が予想されま

した。現地では、安全な海域を求めてカキ筏を移動させることが起こっていま

した。せっかく育てたカキが死んでしまえば、何にもならないので彼らも必死で

した。

 しかし、ここでも最悪の事態には至りませんでした。なぜなら、すぐに気温が

下がり、それ以上プランクトンが増えることはありませんでした。これで、プラン

クトン禍を回避することができ、安心できるようになりました。

 思えば長い夏でした。先はどうなるのか、少しも読めずに、夢でプランクトン

に襲われることもありました。マイクロバブルに賭けて、カキの生育を祈るしか

なかったこともありました。

 こうして、最悪の事態が2年続くということにはなりませんでした。これはカキ

業者のみなさんの危機的状況を救い、その後に望みをつなぐ結果となりまし

た。

 おかげで私も現場で大いに鍛えられました。これで十分と思ったのですが、

その後に、とてもすばらしい事が起こりました。マイクロバブルを掲げて、真剣

にカキ業者のために取り組んでよかったと思うようになりました。これも天の恵

みなのでしょうか、この危機の回避とともに、私の研究者人生も大きく舵を切る

ことになったのです。

 人生は筋書きのないドラマとよくいわれますが、これと同じことが次々に起こ

りました。今思えば、感謝、感謝の広島カキ実験となりました。

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