M:マイクロバブルによるグリコーゲン蓄積の大幅増加、これが可能になる

かどうかは,貝にとって「夏が越せるかどうか」の大問題でした。この蓄積量が

多いほど、夏場に体力消耗をしても耐えることができるからです。また、その時

期に、最も大切な「産卵」を行おうとしますが、これにも体力を使います。カキ

は、オスにもメスにもなれる生物ですが、この卵を作る間では、その分だけ身

の形成が少なくなりますので、その身のなかに含まれるグリコーゲンも減少

し、体力維持が難しくなります。これで弱り、酸欠で弱り、その維持ができない

貝は死滅していくのです。産卵は、子孫を残そうとすることですから、ある意味

では生物にとって最も大切ですが、それだけ危険なことでもあります。

 この産卵は、海水温と重要な関係を有しています。二枚貝においては、その

産卵が開始されるのはおよそ18℃です。夏に向けて海水の温度が上がり、カ

キが成長を開始し、その過程で産卵という重要な「御勤め」を果たすことになり

ます。

 ところで、K君、海水の温度が上昇しているという話をよく聞きますが、約1℃

上昇するのに、どのくらいの期間を要すると思いますか?

 K:文系の私には即答できない問題です。やかんに水を入れて沸かすぐらい

のことはよく理解できるのですが、この場合は、すぐに1℃ぐらいは上がります

ね。ところが、あの広い海のことでしょう?やかんの水のようにはいきません

ね。それに、昼間は暖かくなって、夜は冷えますよね。

 M:水は、もっともあたたまりにくく、冷えにくい物質といわれています。この

海水が1℃上昇するには約1ヶ月が必要になります。つまり、気温は上がって

も、海水温は、その1ヶ月遅れで温かくなっていくのです。ですから、海洋生物

にとっては、私たちとは異なる、1ヶ月遅れの季節感となるのです。ですから、

夏に向かう季節になり、水温が上がり始めると、自らを成長させ、その最大の

使命である産卵の用意をする必要性が生まれます。ところが、海水の高温化

で1℃上昇してしまうと、それだけ成長しないままに産卵の準備を始めることに

なります。つまり、十分成長しないままで産卵をしようとする、いわば少年少女

の段階で産卵しようとすることと同じですから、無理な出産を強いられ、産卵し

たものも未熟児にならざるを得ないのです。

 K:それは、ゆゆしきことですね。私たちは、未熟児のカキを食べているとい

うことですか。

 M:未熟児は身体が弱く、成長するまでに時間がかかります。かつては、そ

の年に産卵したカキが翌年の冬には大きく成長したのですが、それが徐々に

伸びて、1年では育たなくなり、2年、あるいはそれ以上もかかるという事態に

なりつつあります。

 K:カキ業者の方々も大変ですね。しかし、マイクロバブルは、その相手が居

座る現状に切り込んで行ったのですから、これは勇気がありますね。勇気とい

うよりも根性のほうでしょうか?

 M:最初から、勇気や根性があったのではありません。やっているうちに、そ

うなって行ったのですから、よくいえば、その状況に鍛えられたというのが自然

というところでしょうか。マイクロバブルでカキが見事に成長し、とくに稚貝段階

では4~5倍の成長率の向上がありました。そして、その成長には、大幅開口

によるプランクトン取り込みの増加、血流促進が寄与し、それらの結果から成

長ホルモンの産生が予測されるまでに至りました。その結果としてグリコーゲ

ンの蓄積量が増大し、それがカキの味にも重要な変化をもたらすようになりま

した。そして、このカキの成長が観察されるようになった段階で、もうひとつの

重要な効果が見出されました。

 K:まだあるのですか? 奥が深いのですね。

 M:その通りです。それは「産卵制御」という重要な効果に関するものでし

た。

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