M:マイクロバブルによるカキの成長促進の実現問題は、思わぬ方向に展

開していきました。その一つが産卵制御問題でした。春から夏に向かう場合

は、1ヶ月以上も早く海水が高温化しますので、その分だけ産卵が早まりま

す。これは、身が十分成長しない状態で産卵をするようになり、貝の大きさが

5mm~1cmの状態から卵を形成するという「異常」が生まれてしまう原因に

なってしまいます。つまり、大人にならないままに産卵をしてしまうようになり、

未熟児が未熟児を生むという負の連鎖に陥ってしまうのです。

 
K:そのようなカキを食べているということですね。それは問題ですね。

 M:その通りです。カキにとっても不本意のことだと思います。


 K:それで、マイクロバブルで何が起きたのですか?

 M:夏になると広島湾の一ヶ所に、カキによって一斉に産卵された卵子が集

まる場所があります。そこでは海の色が、産卵された卵子で白くなるそうです。

カキ漁師は、そこに縄にくくり付けたホタテ貝を持って行き、それに卵子を付着

させるのです。199年は、その卵子が海の深部に留まっていて、上にあがって

こなかったので、みなさん、卵子が付着しないと困っておられました。そこで、

マイクロバブルを発生させ、その卵子を浮上させたのです。海の深いところで

マイクロバブルを発生させると、そこからゆっくりと浮かんできます。この上昇

速度は1m上がるのに約5時間かかります。実際には、気泡が集まると全体

的にはもう少し浮上速度が大きくなりますので、かなり短縮されますが、マイク

ロバブルに卵子が付着して浮上したのだと思います。このとき、マイクロバブ

ル発生装置を持っていた漁師だけが、その付着に成功しました。

 
K:すごい話ですね。マイクロバブルはゆっくり上昇するようですが、大きな気

泡の上昇とは、どう違うのでしょうか?


 M:あるとき、マイクロバブルの発生装置の「ものまね」が登場しました。それ

らは、下層の酸欠海水を上層にまで運び、海全体をかき混ぜることで酸欠を防

ごうという意図のものが多く、これにマクロな気泡が用いられています。これは

一見よさそうな気がしますが、実際には重大な問題がいくつも存在していま

す。まず、マクロな気泡は上昇速度が大きいことから、周囲の酸欠海水を急激

に上昇させますので、カキが痛んでしまうという欠点があります。この種の装

置を設置したカキ筏ではカキが死んでしまい、カキ筏をすぐに移動させたおい

う事例もありました。また、マクロな気泡の電位は非常に低く、卵子(幼生)を

付着させることができません。

 
K:マイクロバブルの真価が発揮されたのですね。

 

M:さらに、すごいことが起こりました。水深10mの地点でマイクロバブルを発


生させると、周囲の海水を徐々に上昇させることで、水面近くの海水温が約

1℃低下したのです。これには、重要な効果がありました。

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