M:マイクロバブルを水面から10m下で出したことによって、下にある冷たい
水が徐々にマイクロバブルとともに上にあがってきました。なにせ、マイクロバ
ブルは小さいので、その上昇速度は1m上がるのに5時間もかかります。です
から、そのほとんどは、途中で溶けてしまい、その水が上にあがってくるので
す。酸素が豊富で、生理活性を引き起こす泡と水ですから、カキの方は大歓迎
です。これで、単に表面の水温を1℃下げただけではなく、その活性を引き出
す水を供給したことに大変な意味がありました。
K:というと、カキになにか重要な変化が起こったのですか?
M:その通りです。すでに産卵を始めていたカキが、逆に、それを止めて「身
入り」を始めたのでした。これは、柔らかい卵が硬くなって身になっていくことを
意味していました。カキとしては、水温が低くなったので、まだ産卵の時期では
ないと本能的に判断し、自分の身体を成長させることに切り替えたことになり
ます。産卵による体力消耗、つまり元気の素であるグリコーゲンを消費するの
ではなく、逆に蓄積する側に向かうわけですから、当然元気になって成長して
いくことになりました。
K:わずか1℃の差が、そのような逆転を生んだのですか? すごいことです
ね。
M:生物は素直です。理にかなっていれば、どんどん、自らの能力を発揮す
ることができます。しかし、それが反対だと、自分を生かすことができないの
です。ですから、自然の仕組みを簡単に変えて、生物を追いこめてはいけない
のです。自由自在に技術を操れる強い者こそ、弱い者のことと考える必要が
あるのです。30年前までは、半年で成長していたカキが、そこまで成長するの
に、2年も3年もかかるようになってしまったことには、私たちが反省しなければ
ならないいくつもの課題があるはずで、そのことをカキの現実が教えているよ
うな気がします。
K:わずか、30年余で、ヒトは、海を汚し、そこに住む生物まで脅かすように
なってしまったのですね。これは決してほめられることではありません。
M:身が入って成長したカキたちは、立派に排卵を遂げました。このときも、
カキは体力を消耗し、しばらくは成長することができません。ところが、マイクロ
バブルを浴びると、再び元気になって成長を開始しました。そのときは、夏が
過ぎて秋に向かう季節になっていましたが、ここで、水温がさらに1℃さがりま
したので、また、よいことが起こりました。
K:えっ! また、よいことが起こったのですか。
M:そうです。自然はそんなに単純ではないのです。
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