K:M君、こうして振り返ってみますと、広島カキ養殖についての取り組みは、その

後の研究者人生に大きな影響を与えましたね。

 
M:たしかにその通りです。その時の詳しい事情は、拙著『マイクロバブルのすべ

て』に述べられています。もう2年以上も前の出版でしたが、今でもよく売れているよ

うでありがたく思います。今、アマゾンランキングを調べみましたら、化学工学の分

野で2位、科学読み物の分野で102位という比較的高ランクを示していました。

 K:それはすごいですね。その本が出た直後には、この内容についてよく話をしま

したね。そのときに、私は、この本であなたの人生や人柄が語られているといいま

したが、それが読者の共感を呼んだのではないでしょうか。この本は、息長く読ま

れると思っていましたが、やはりその通りになりました。

 
M:K君、あなたの部屋で、その内容についてよく話が弾みましたね。拙著『マイク

ロバブルのすべて』には、マイクロバブルの技術開発や実践例について、その最初

から3年前ぐらいまでの経験が記されています。この本は、ある意味で私のマイクロ

バブル研究の個人史を示したものですが、お恥ずかしいことに、未熟な私がそのま

ま示されています。このとき、どのような立場から書き進めるかをいろいろ考え、正

直に、そのままを述べさせていただくのが一番良い、そして、わかりやすく、身近な

存在として書くことを大切しようと思っていました。

 K:この本は、専門書でもありますので、その面が強調されると、堅苦しくなって、

読み進めなくなりますが、それを回避する工夫がかなりなされていますね。

 目線を下げて、自然に語ることを大切にし、従来の専門書の枠を破りたいと

思っていました。これまでにもたくさんの読者からの感想が寄せられています。

 K:ありがたいことですね。こうしてマイクロバブルの正しい理解が始まっていると

いうことを考えるとなんだかわくわくします。ところで、そのきっかけとなった広島で

の取り組みを今の時点で振り返っていただくと、どのようになりますか。

 そうですね。この取り組みを通じて、マイクロバブルへと「ブレイクスルー」して

いったといえますね。当時は、マイクロバブル発生装置を開発したにもかかわら

ず、それをどのように生かしたらよいかがわからず、海水への適用もなされていま

せんでした。そんなときに、大学時代の友人から電話があり、何とかしろという声に

負けて、取り組むことになりましたが、結果的に、それがよかったことになりました。

 K:その時点で、うまくいくとういう見通しはあったのですか。つまり、リスクはな

かったのかということですが。

 リスクは感じていました。しかも相当高いものでした。今思えば、そのようなリ

スクがないと、このような「意味ある新しい仕事」はできないのではないでしょうか。

反面、なにが起こるか分からないという面白味もあり、非常に魅力的でした。

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