早朝の新幹線「のぞみ」に乗り、今、福山を過ぎたところです。例によって出張前

は、いろいろと忙しく、この2、3日は目まぐるしい日々を過ごしてきました。じつは、

来週月曜日が学生たちの卒業論文提出締切日であり、いつものように、直前でし

かがんばらない学生たちを相手に、こちらも本番の「立ち回り」をしていました。

 まず、かれらに最初に理解させることは論文の基本骨格です。

 「一番大切なものは何か」
 
 これをすぐにいえるようになるまで、何回も討論を繰り返します。この最も大切な

成果を理解しないで論文執筆を行う場合がほとんどであり、ここで、その基本的理

解を徹底させる、これが肝要です。

 この基本が即座にいえるようになると、具体的な論文のシナリオについて検討し

ます。何が結論として導かれるのか、その筋書きを明らかにしていきます。この過

程では、重要なデータの並べ方が問題になりますが、ここでも、それを入れ替えるこ

とによって、筋書きがしっかりしてくることを納得させます。この段階では、どのよう

に論文を書き進めるかについて、具体的なアイデアが学生の頭のなかにはできあ

がっていませんので、「こうしたら書きやすくなって、論文執筆が進むでしょ」と、さら

に説得を繰り返します。

 この思考過程で、データ間の相互関係が明確になり、科学的な考察がより可能に

なっていきますので、それまで叱られて引き締まっていた学生の表情が徐々に和ら

いできます。ある学生に、私は次のように質問しました。

 「そのようなデータを載せることは、データ間に矛盾が生まれ、結局は論文が書け

ないことになるのではないか」

 ところが、その学生は、「いや、何とかなります。なんとか説明できるように考えて

みます」、このような「がんばる」宣言を繰り返すのです。この傾向は、もう一人の学

生にも認められました。

 「そんなことをしていたら、締め切りに間に合いませんよ。この前も、しっかりやる

といっていたではないですか。それができていないのだけど、それで、できるのです

か」

 こういうと、「これからがんばります」、これをひたすら繰り返すのです。

 あまりにも、この返答の内容や口調がよく似ているので、彼らの思考回路の特徴

を見出すことができました。そこで、こちらも知恵を働かして、次のようにいってみま

ました。

 「間に合うようにがんばるとか、やるとかだけを繰り返しいうだけになっています

が、いまのようなやり方では間に合わないのだから、それを素直に受け入れてみた

らどうですか?」
 
 こういうと、私のいわんとすることがよく理解できないので、きょとんとした顔つき

になりました。何をどのように具体的にやったらよいかが分かっていないので、やり

ようがないのですが、それを理解していないのが彼らなのです。そこで次のように

いうことにしました。

 「『先生のいうとおりで、本当に間に合いませんね』といえたとしますね。そうする

と『間に合わせるにはどうするか』、『どうしたらよいか』についての知恵を得ること

になりますね。嘘でもいいから、私のいうことを認めて、『どうすればよいのです

か?』と尋ねてみたらどうですか?」

 こういって、同じ質問をしますと、彼らは、「どうすればよいのですか?」と正直に

決まって尋ねてきます。これを「知恵を得た」、「知恵が周った」状態ということができ

るのですが、こうなると、「それではどうしようか?」と一緒に次の策を考えることに

なるので、その進展の重要性を彼らに理解させることができるようになります。つま

り、正直に、自分の考えていることを述べることが、いかに建設的であるかを教え、

よく理解させるのです。
 
 また、その重要性を一端理解させても、その次の段階では、忘れてしまうこともあ

りますので、その場合には、繰り返し、粘り強く、正直が最短であることを諭す必要

があります。

 こうして、論文の内容がより明らかになっていきますと、彼らの目も徐々に輝いて

きて、俄然やる気を見せるようになります。この基本的視座の確立、納得のいく筋

書き、そして正直を基本とする知恵の出し方、これらが理解できるようになると、自

分で、執筆を進めることができるようになります。

 毎年のことですが、この過程では、少し声を大きく発してしまうことがあります。し

かし、ここで、叱られながらも、それを受け入れて自らを変えることができることに、

彼らの「未来」を感じることができます。ここが若くない方々とはかなり違うのではな

いかと思います。

 列車は、新神戸まできました。そろそろ、昨夜、彼らから届けられた論文原稿の

チェックをしないと怒られそうです。これから、名古屋経由で豊橋技術科学大学に

行き、「ブレイクスルー技術を踏まえた高専・技術科学大学連携」と題した講演を

行う予定です。その講演の準備もいまだ未完成です。豊橋では、久しぶりに、新春

対談の相手であるKさんにも会うことができます。

 上記の連携問題に関しては、とてもエキサイティングで、そして楽しい議論になり

そうで、すこしわくわくしています。この合間を縫って、学生たちの論文の推敲を支

援する、これも時間を搔い潜る刺激とスリルに満ちた作業となりそうです。

J0400587