K:日本はおろか世界中が,「グリーン・ニューディール」を実現するために,ブレ

イクスルーが生み出されることを期待している,これが現在の状況です.問題は,

それをどうやって実現していくかですね.

 
M:これに関して,先日の日経新聞に大変興味深い記事が出ていました.それ

は,京都大学の植田和弘教授が書かれた「経済教室」欄の記事でしたが,その「グ

リーン・ニューディール」について次のように書かれていました.

 「(温暖化防止)中期目標は,それを受けて企業や国民が温暖化防止へ向けてど

う行動するかというシグナル,先導役としての効果も極めて重要だ」

 として,我が国が「低酸素社会の先導役」を果たすべきであると強調し,「温暖化

ガスは削減していくが,社会的・経済的にはより豊かになっていく」というモデルの

構築の重要性を指摘されています.

 K:それはすばらしいことですね.地球の温暖化を防止しながら,社会経済的にも

積極的に豊かになっていくということですから,これは,これまでのわが国の動向と

は異なるものですね.そこに「ブレイクスルー」がある,必要であるということなので

すね.

 M:そうですね.どちらかといえば,温暖化防止と社会経済的指向とが,どちらか

といえば「対立的なもの」と考えられてきました.さらに,同氏は次のように述べてい

ます.

 「温暖化防止の過程で地域が疲弊するのでは取り組む意欲もわかないし,防止

策自身も成功しない.温暖化防止のものづくり,まちづくり,生活づくりが一体とな

って取り組まれるなかで,それぞれが相互に刺激し合い,新しい生活スタイルや

技術,それを支える社会制度をイノベーティブに創造することで,日本モデルは生

まれるであろう.温暖化防止というグローバルな難問の解決に主導的に貢献する

ことは,日本の国益にもかなう.そうしたモデルは,持続的可能性に基づく企業活

動や持続可能な低酸素社会をつくりだし,日本経済の質的な強化にもつながると

思われる」

 この「日本モデル」を創出せよというシグナルは重要であり,それをいかに実現す

るかにおいて,数々の「ブレイクスルー」を「ものづくり」,「まちづくり」,「生活づくり」

において生み出すことが求められているのだと思います.

 K:産業から,生活,そして高専でも行われている「ものづくり」において,「ブレイ

クスルー」が問われているということは,まさに,ブレイクスルー技術研究所の課題

と切り結ぶということですから,そのあり方や生み出す成果が根本的に問われてい

るということですね.これは大変なことですよ.

 M:そうです.じつに大変なことで,「これ以上に小さくない課題はない」といえます

ので,「やりがい」のある課題といえます.この課題解決を,阿智村のように少なくな

い困難を抱えているところで実現できるとよいと思っていますが,これは,容易なこ

とではありません.

 K:小さな村が抱えるいくつもの困難を克服,突破する,ブレイクスルーすること

で,それを積み重ねて大きな課題に挑む,これが最も確実な方法ですね.

 M:ひとつひとつの困難を突破することが大切ですが,それには,黒澤明監督が

好きな言葉だった「悪魔のように細心に!」という気持ちが重要です.しかし,それ

を実現する技術には,世界の隅々まで浸透することが可能な普遍性がありますの

で,ここにおいては,同じく監督が,その言葉に続けていった「天使のように大胆

に!」という信条が大切だと思います.その「ものづくり」技術が成功するかどうか

が問われてくることになると思いますが,これまで述べてきたように,私は,そのモ

デルとして,マイクロバブル技術の「発展」に確かな「手ごたえ」を感じています.

 これからも,マイクロバブルにおけるブレイクスルーをいかに連続的に実現してい

くか,これが重要な鍵になっていくのではないかと予想しています.

 K:なんだか,期待を感じながらも,一方で気が遠くなる思いですが,それを見てみ

たい,見届けたいという気持ちも押さえることができません.大海原に漕ぎ出す小

舟の船長のような気分です.

 M:それではK君,船の操縦はまかせますので,それに揺られながら,「天使のよ

うに大胆に,そして悪魔のように細心に」なって,その「ブレイクスルー」を起こすこ

とを考えつづけたいと思います.今の場面は,映画「7人の侍」において,その戦の

ために,「7人」が村に向かう時であるのかもしれません.

 その侍のみなさんの表情は,なぜか明るく楽しそうでした.

                             (300回記念の稿は,これで終わり)

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