宮廷の医官となったホジュンの最初の職場は,今でいう「外来病院」のようなとこ

ろでした.ここに送られると,ほとんどが皇族のための医者の道から外れて辞めて

いくと,恐れられていたのですが,ホジュンは,むしろ,その逆で,好んで,その担

当を希望しました.その理由は,たくさんの患者を診ることができ,それが自分のた

めになると考えたからでした.実際,田舎の医院に比べて,そこに来る患者の数は

膨大で,病気の種類も多く,その対応ができることを非常に貴重だと思うことは,亡

き師であるユ医師の教えに従うものでもありました.ここが並みの医官とは違うとこ

ろでした.

 現場の先輩医師や同期の医師たちと意気投合し,協力して,その外来患者の診

療を行うことで,いわゆる叩き上げの医師の「腕の力」を磨き,さらに立派な医師と

しての修行を重ねていきます.

 ここで,自らの「出世や処世」しか考えない医官との明確な差が出てきますが,彼

らは,それに医師としての「現場力」にどうしても欠けてしまいます.いくら頭が良く

ても,選ばれた宮医(エリート)としての立場や環境(最高の文献閲覧ができる,あ

るいは最高の薬剤が利用可能,最高のスタッフ構成など)があっても,しかし,肝心

の病気が治せない場合に遭遇してしまうのです.なぜなら,病気は平等にかかって

しまうものであり,皇族だから特別に免除されることはなく,しかも,さまざまな因子

の影響を受けて結果的に特別の病気になってしまうのであり,その原因解明を行う

診断力と治癒力が真に試されてしまうからでした.

 宮医にとって,王様をはじめ皇族の健康管理と病気を治すことが最大の仕事であ

り,責務でもあります.普段は,いくら偉そうにしても,その病気を治すことができな

ければ,彼ら自身の地位や身が危なくなってしまいます.

 そこで,彼らは,ユ医師の息子であり,先輩医師であったユ・ドジも含めて,窮地

に陥ったときには,ホジュンに頼るしか術がなくなってしまいます.皇族にとっては,

病気が治るかどうかが問題であり,それを結果的に治してしまうホジュンの信頼度

は増すばかりとなります.ここで,ホジュンが培ってきた「現場対応力」,「文献調査

力」,「薬剤調合力」,そして伝家の宝刀である「針の打ち込み力」がものをいうよう

になります.

 こうして,ホジュンは,王様や皇族にとってなくてはならない「御医」になっていきま

した.ホジュンの「医師力」が,その階段を一歩一歩と登らせていくことになっていき

ました.

                                             (つづく)

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