映画「博士が愛した数式」の主人公は寺尾聡さんが演じていました.作中の名前

がよく分かりませんので,ここでは「寺尾博士」と呼ばせていただきます.

 以下,その寺尾博士宛の手紙です.

 
 寺尾博士 殿

 拝 啓

 映画のシーンの一つにありました春風に桜が舞うころとなりました.ますます,ご

健勝のことと拝察しております.

 じつは,先日,私の教え子のMさんから,博士の映画をぜひ見てくださいとDVDを

渡されました.「先生も涙を流すほどに感動するでしょう」といわれ,その言葉を信じ

て,博士の物語を観させていただきましたが,やはり,そのMさんのいう通りに,あ

るいはそれ以上に感動させていただきました.ありがとうございます.

 さて,博士は,記憶が80分しか継続しないと聞いています.しかし,阪神タイガー

スの江夏投手が現役で投げていたころまでの記憶は残っているそうなので,まず

は,その江夏さんの話をさせていただきます.

 江夏といえば背番号28,あなたの好きな数字で,この28は「完全数」と呼ばれ

ています.この背番号28は,宿敵巨人軍のスター長嶋,王との対決において最も

輝いていましたが,きっとあなたも,そう思ったに違いありません.

 色白で華麗な守備をする長嶋,強靭な身体で目にも止まらない速さでバットを振り

抜く王,この両者に江夏は真っ向から立ち向かっていきました.結果を総合すれ

ば,私の記憶では,長嶋・王の連合の方が勝っていたと思われますが,しかし,

ここぞというときに江夏が本領を発揮して,二人をきりきり舞いさせることもありまし

た.

 このシーンは,子どものころに見た「鉄腕稲生」の雄姿と重なりました.稲生の背

番号は24で,江夏の28とは異なります.しかし,私にとっては,この24も好きな数字

です.小さいころにあこがれた鉄腕稲生の背番号が24でしたので,その数字が好き

になったという理由です.これは数字を愛した博士とはやや違う理由になりますが,

それでも,この数字が違うことに関しては変わりはなく,きっと博士は,「それでもい

いよ」といってくれるのではないでしょうか.

 映画では,たしか江夏がさよならホームランを打ったシーンがありました.彼は,

投げるだけでなく,自分で打って勝つことにも精力を投入しました.それは,きっと

自軍の打者が長嶋・王ほど打てなかったからだと思います.この特徴は稲生にもあ

りました.とにかく良く打ったものですから,代打で出てくることもありました.そして

稲生の「さよならホームラン」といえば,巨人と西鉄の日本シリーズ第5戦のことを

思い出します.これで西鉄は3勝3敗になり,次の日の4連勝を成し遂げるステップ

を築きました.このとき,稲生は,長嶋・王とも対戦しますが,このときは,稲生の方

が両新人を抑え込みました.

 おそらく,私の記憶では,この稲生と長嶋・王の対決以来の本格的な対決が,江

夏との「対戦」であったと思われますが,博士はいかがでしょうか.

 少し,前置きが長くなりました.私が,こうして手紙をしたためさせていただく理由

は,「博士に,マイクロバブル風呂に入っていただきたい,そのお風呂で,あなた

の好きな数字や数学のことをゆっくり考えていただきたい」と思うことにあります.

                                    (この手紙の稿つづく)

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