K3先生の職場を訪れたのは,今から2年前の7月のことでした.その時,近くの蔵

王温泉で温泉に関する学会があり,そこで発表させていただきました.この折,K先

生と一緒に,水素イオン濃度(pH)1.5という超酸性入浴を体験しました.乳白色の温

泉でしたが,その知覚神経刺激の自覚はなかったものの,少し長く入ったので,風

呂から出て鏡に写る自分の姿を見て驚きました.なんと全身が真っ赤になっている

ではないですか,それを見て「これが酸性温泉における知覚神経刺激の結果なの

か」という認識を持つにいたりました.

 そして,この刺激が私の満腹中枢を刺激したたことから,目の前の朝ごはんを食

べることが,すぐにはできなかったという貴重な体験をさせていただきました.この

とき,K先生はなんともなく,普通に朝ごはんを食べておられました.その攻守逆転

が起きたのが,長野県阿智村での昼飯どきのことでした.

 私は,それを予想して軽いものを注文していたのですが,彼は,大好きな好物の

トンカツを頼んでいました.目の前に,その大きなトンカツ丼が運ばれたのにもかか

わらず,すこしも箸をつけようとはしませんでした.湯ったりーな昼神のマイクロバブ

ル風呂に入ると,同じように満腹中枢が刺激されて食欲を一時的になくすのです

が,それがK先生にも起きて,好きなトンカツが食べられないという,顕著な効果が

出現したのでした.これで,マイクロバブルによる満腹中枢刺激効果を体験的に学

習することができた,つまり,マイクロバブルの刺激が脳の神経刺激にまで及んで

いるという貴重な実体験をなされたという,「吃驚現象」を経験されたのでした.

 国木田独歩や芥川龍之介がもし生きていれば,そして,この満腹体験をしていた

ならば,かれらは,そのことを自分の小説の中に書き記したことでしょう.また,松

本清張さんであれば,それを何かのトリックの題材に利用したかもしれません.

 二回目の現地行きは,その年の秋でした.地元で講演会が開催され,うれしいこ

とに,大勢の高専の学生のみなさんが,それを聞きに来てくださいました.この地

方としては予想以上の参加者であったそうですが,この講演は私にとっても比較的

にうまくいった方のものでした.お国柄でしょうか,その後も,この講演の効果がじ

わじわと効いていたようで,少なくない参加者のみなさんの心を捉えていたことが,

時間の経過とともに徐々に判明してきました.

 なかでも,その大挙して講演会に参加した高専生のみなさんから,お礼の手紙を

多数いただきました.それを読ませていただいて,上記のことに関する認識をさら

に深めさせていただきました.そこでうれしくなって,鎌倉の有名な菓子屋の「レー

ズンクッキー」を送付させていただきましたところ,さらに彼ら,彼女らの「心に火が

つく」という結果になってしまいました.そして,次には,「マイクロバブルファンクラ

ブ」ができ,それに呼応して,当方は,またまた,「岩村もみじ屋」の「マイクロバブル

もみじ饅頭」を送るという事態にまで発展していきました.

 ここには,技術を学ぶ若者としての本質的理解があります.「本当に『わかる』とい

うことは行動生むことである」といわれた方がいましたが,かれらには,この行動が

あり,なかには,自分がマイクロバブル風呂に入りたいために,お祖父さんに頼ん

で,それを買ってもらった方もおられました.また,試験前に勉強をしすぎて,元気を

無くした女子学生が廊下に佇んでおられたそうですが,「どうしたの,なんだか元気

がないね」とK先生が尋ねると,「暗い気持ちになったので,この本を読んでいまし

た」といわれたそうです.その本とは,拙著『マイクロバブルのすべて』だったのでし

た.これを聞いた時には,私の方が感動して励まされました.

 こうして,K先生を起点にして,マイクロバブルの出来事がさまざまに起こり,それ

がみなさんの心に根付いていきました.しかし,物事は,このように喜ばしいことだ

けが起こるわけではありません.ちょっとしたすれ違いで,それとは反対のことも同

じように起こってしまう,これが世の常です.そのために,苦労も背負わなければな

らないことだってあります.

 ここが「辛いところ」なのですが,ここは男ですから,ぐっと我慢も必要なのです.

「ここが辛いところ,泣いてたまるか」は,車寅次郎の思いを表現する言葉ですが,

ひょっとしたら,北の地のどなたかも,そのような思いを噛みしめられたのかもしれ

ませんね.

                                        (この稿つづく)

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