このところ、パブロ・カザルスの無伴奏チェロソナタ(バッハ作曲)を好んで聴いて

います。その解説書によれば、音楽学校に通っていたカザルス少年が、ある日、古

本屋で何かよい楽譜はないかと探していたら、そのチェロソナタの膨大な楽譜を偶

然見つけることができたというのです。

 彼の偉いところは、それを自分で練習して、その曲をマスターしていったことにあ

ります。その期間は約13年、25歳の青年に成長し、初めて、その曲を自分で披露し

ました。ここが並みの音楽家がすることとは違っています。

 自分で楽譜を発見し、それを自分で練習してマスターし、自分で演奏して披露した

のですから、まさに独力で、そのチェロソナタの演奏技術を世界で初めて確立して

いったことになります。当時は、チェロソナタというスタイルがなく、その演奏によっ

て、独自のスタイルを創造したのも若きカザルスだったのですから、ここがすごいと

ころですね。

 ですから、それこそ少年期、青年期と長きにわたって、自らの独創的スタイルを実

践的に構築していったのが彼自身だったわけで、ここに、彼の格別の素晴らしさが

認められます。この若くして育てられた独立精神は、その後、ますます発展こそす

れ、少しも歪められることはありませんでした。

 その意志は、次の2つの貫徹によって明確に示されています。

 [1]日々の練習を欠かさず、音楽こそ命と思って、研鑽を重ねたこと。

 [2]フランコ政権の横暴に抗議し、それに屈しなかったことから、終世、祖国に帰

ることはなかった、祖国を追われても平和を希求したこと。

 それにしても、この無伴奏チェロソナタ6曲の響きはすばらしいですね。私には、少

年期、青年期と練習を重ねた姿や晩年の小さな教会で毎日練習している彼の姿

が、その演奏とともに脳裏に鮮やかに浮かんできます。

 彼とは違って、私がマイクロバブルを意識し始めたのは1980年代の初めであり、

少し遅れてからのことですが、日々「宝物のような存在」として接する姿には、どこ

か共通性があるような気がしています。

 そこで、少し時空間を超えてタイムスリップしてしまいますが、カザルスさんが毎

日、練習をしている教会を訪ねてみることにしましょう。

J0409210