昨日は、本物のカザルスさんに声をかけられ、二人して感激しました。その興奮
は、食事のときも冷めやらず、地元産ワインを片手に延々と話が弾みました。
「それにしても、あの生の音色はすごかったですね」
「あの無伴奏チェロ組曲7番の出だしは最高でした」
「どうして見も知らぬ私たちに声をかけてくださったのですかね。不思議ですね」
など、話題は尽きぬで、夜はあっという間に更けていました。
翌朝は、私たちの方が先に教会に着いていました。昨日と同様に、日差しが強い
割に涼しい風が吹き渡っていました。
カザルスさんは、定刻なのでしょうか、まもなくやってきて、本日は、バッハ無伴奏
チェロ組曲の8番から演奏を始めました。やはり、出だしの部分を何度も繰り返しな
がら演奏され、そして長いフレーズが続く旋律に移っていきました。おそらく出だし
の強烈なフレーズから、その滑らかな連続フレーズへ移行する様をあれこれ、探ら
れているのかなと思いましたが、それにしても、何もいわず、ただひたすら、演奏に
打ち込む姿には大変な迫力があり、教会の窓から射す初夏の光のなかで、彼は崇
高な輝きを発していました。
私たちは、その生演奏に惹きつけられ、いつしか昨日と同じ夢見心地になってい
ました。これは、いったい、何なのでしょうか?
やがて、一心不乱の練習を終えると、彼は、私たちの方をちらっと眺めて、そのま
ま帰って行かれました。
「今日は何も仰らずに帰っていかれましたね」
「でも、ちらっとこちらの方を眺めておられましたよ!その時の目が、微笑んでおら
れたように感じました」
「私も、そのように感じました。今日も素晴らしい経験をさせていただきましたね」
「それにしても、8番の出だしは強烈でしたね。何度も何度も、その部分を練習さ
れていましたが、その度に音色が微妙に変わっていました。迫力がありました」
こうして、私たちは、毎朝、その教会を訪ね、カザルスさんの演奏を聴くことがで
き、二人して至福の1週間を過ごすことができました。
しかし、残念なことに、そろそろ、お別れの挨拶をしなければならない頃となってい
ました。
(この稿つづく)
コメント
コメント一覧
大変すばらしい取り組みに敬意を払い、九州の大恩師への中元は世界で初めて実現したという結球野菜にすることとしましよう。ではでは。
コメントありがとうございます。ご指摘のように、山根さんのところの「百年野菜」は、その美味しさに特徴があります。さぞかし、恩師も驚かれることでしょう。あなたも、この野菜でより元気になられるのがよいと思います。