しばらくの沈黙が続いたあとで,カザルスさんは,次のように,きっぱりいいまし
た.
「あなたがたは,今,ホワイトハウスのコンサートについて述べられましたが,そ
のコンサートは,これから取り組むことです.それなのに,あなたがたは,その結
果をどうして知っているのでしょうか?どうやら,あなた方には,何か訳がありそう
ですね」
「これはやばい!」と思いましたが,すでに「後の祭り」でした.「どうしようか」と隣
のKさんを見ると,彼も,どうしよかと困った表情を浮かべられていました.
「ホワイトハウスでのコンサートは,いろいろと準備が必要でした.私が平和を大
切にして活動してきたことが関係していました.しかし,ようやく,その開催が決まっ
たところです.今度も『鳥の歌』を最後に演奏する予定です」
私は,いよいよ,「これは大変なことになっと」と思い,こうなったら,正直に話すし
かないと決心しました.
「じつは,カザルスさんに信用していただけるかどうか,とても心配ですが,私たち
は,はるか遠くの日本から,しかも未来からやってきました.ホワイトハウスのコン
サートも,このCD(コンパクトディスクのなかに収められていますので,誰でも自由
に聴くことができます」
こういって,そのCDを差し出すと,カザルスさんは,目を細めて見られていまし
た.
「世の中が進むということは,このようなことなのですね.これは,レコードが進化
したものですね」
そのCDを見せられ,カザルスさんは,私たちが未来から来たことを少し理解でき
たようでした.
「残念ながら,このCDを動かす機械がありませんので,そのコンサートの演奏を
聴くことはできません.しかし,このような機器で,未来においては,世界中の多く
のみなさんが,カザルスさんの演奏を聴かれています.これは,とてもすばらしいこ
とだと思います」
「そうですか,私の思いと演奏が,歴史の時間と空間を超えて広がっている,愛さ
れているということを聞くと,なんだかとてもうれしくなってきました」
「カザルスさんの音楽は,平和のメッセージとともに,世界中の人々の心を捉え
ています」
「よいことを教えていただきました.おかげで勇気が出てきました.ホワイトハウ
スの演奏家でも力を尽くさせていただきます.ところで,あなた方は,日本でどんな
仕事をされているのですか」
ここで,「待ってました」と思われたのでしょうか,Kさんが語り始めました.
「はい,私たちは,15歳の学生を受け入れる教育機関の教員を仕事としていま
す.最近の日本では『KOSEN(コーセン)』と呼ばれていますが,時代に即した若き
技術者を養成して世に送り出していますので,活発な研究も行われています.最
近,その高専で,『マイクロバブル』というユニークな研究が行われています.とく
に,この5,6年,日本では,これに関する技術が急速に拡大してきました」
「その『マイクロバブル』とは何ですか?どんなものですか?」
「それは,非常に小さな気泡のことです.この気泡を安定して大量に発生させる機
械を,ある高専教員が,世界に先駆けて開発しました」
こういいながら,Kさんは,マイクロバブルの発生装置やそれを用いた利用分野,
マイクロバブル技術の凄さなどを一気に語りました.カザルスさんは,少年のような
目つきで,その解説をとても不思議そうに聞かれていました.
(この稿つづく)
コメント
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さて、ドクター。マイクロバブルを糧として、今の情けなくダラシナイ日本の世直しか、それとも再構築となるかははわかりませんが、小生も少しずつ本気を出します。応援よろしくお願いします。ではでは。
ではでは。
貴重な情報をありがとうございます.そのような研究が存在することは,すでに知っていました.それが発表の段階になったということでしょうか.マウスでは非常に結果が出やすいのですが,重要な成果だと思われます.
コメントありがとうございます.最近は,印象深いことを少し深く考えてみる癖が出てきました.そのきっかけは,『博士の愛した数式』の映画を見たことであり,それを紹介していただいたのはあなたですから,間接的な「仕掛け人」はあなたということになります.カザルスさんのなされたことは大変立派なことですので,それを踏まえて,「もしも,こうだったら」という思いが,そうさせているのだと思います.いちど,無伴奏チェロを聴いてみてください.私の思いをより深く理解することが可能になると思います.