Kさんによるマイクロバブル技術の説明は延々と続きました.途中で,カザルスさ

んが,それはどうして,なぜと質問されたので,また,その追加の説明を行うとい

う具合になったからでした.チェロ奏者とはいえ,非常に技術に明るいカザルスさ

んには驚きました.ですから,チェロの技法も,あのように自由に変えることができ

たのだと思います.私は,その傍で,この迫力ある最高のやり取りをしているお二

人の表情を見て楽しんでいました.

 「Kさん,そろそろ夜も更けてきましたので,お暇をしましょう.出発の時刻です.カ

ザルスさん,大変ありがとうございました.とても価値ある1週間を過ごすことができ

て感謝申しあげます」

 カザルスさんは,にっこり笑って頷かれていました.私は,感謝の意をこめて,「さ

よなら」の挨拶をしながら,彼に封筒を手渡し,その場を後にしました.

 「Kさん,とても印象に残る一時でしたね」

 「無伴奏チェロ組曲を生で聞き,若い頃のこと,さらには最近の音楽活動のこと,

ホワイトハウスコンサート,さらにはマイクロバブルのことまで話をすることができま

した.最高に幸せな一時でした」

 「よかったですね.カザルスさんは,今頃,私の手紙を読んでくださっていると思い

ます.これからも,元気で頑張ってほしいですね」

 私は,岐路の途中で,その手紙の内容のことを思い出していました.

 「カザルス殿

 この1週間,修道院(先日までの記事では『教会』と書いていましたが,この表現の

方がよいようです)で,あなたの練習される様子を,生で拝聴させていただきまし

た.このような体験はもう二度とないと思いながら感激していました.その意味で,

大変な至福の一時でした.改めて深く感謝申し上げます.

 ところで,ホワイトハウスコンサートの件では,大変失礼なことをしてしまいまし

た.私たちにとっては,過去の出来事が,そうではなかったことに気付かず,あなた

の未来のことまで,愚かにも言及してしまったことを深くお詫びいたします.また,そ

の過ちを心広く許してくださったことを大変うれしく思います.どうか,来るべきホワ

イトハウスおいては,渾身の演奏をしてくださるように切に願っております.
 
 あなたとのお別れに際し,感謝の意を示すのに何がよいかをいろいろと考えまし

たが,私にできることでベストのことは,このマイクロバブル発生装置を置いていくこ

とだと思いました.Kさんは,私が,この装置の開発者であることを述べられません

でしたが,私の手前遠慮されていたのだと思います.

 この装置は,あなたの家のお風呂のシャワーのノズルと取り換えられるはずで

す.この装置を取り付けられてみてください.そうしたら朝顔の花のようにラッパ状

に液体が出てきます.しかし,この状態では,マイクロバブルはほとんど出てきませ

ん.そこで,そのラッパ状の液体部分を手で包むようにしてください.そうすると,少

し甲高い音が聞こえるようになります.この音が出ているときが,マイクロバブルが

発生したときなのです.

 まずは,そのマイクロバブルが大量に発生している液体を頭の上からかぶってく

ださい.首筋にかけても気持ちがよいはずです.それから,チェロの演奏では,両

腕において筋肉痛や神経痛が起こるところがあると思いますので,その部分にお

いて手で水を囲んでマイクロバブルを当ててみてください.その部分がや笑くな

り,痛みが和らぐようになると思います.それから,湯船の中の水の中にマイクロバ

ブル装置を入れると大量のマイクロバブルが発生します.半身浴で,ゆっくりマイク

ロバブルに浸ってください.身体があたたくなって,夜もぐっすり眠れるようになりま

す.また,リラックスした後に,集中力が高まりますので,演奏にもきっと良い影響を

与えることになると思います.どうかいつまでも若々しく元気で過ごされてくださ

い. ますますのご健勝を祈念致します.                     敬白 」

 
 これで,カザルスさんとの音信は途絶えてしまいましたが,マイクロバブルが,そ

の後人生にどのような影響を与えたかについては不明のままとなりました.大空を

舞う鳥のように,きっとダイナミックな人生を送られたのではないでしょうか.そのこ

とは,ホワイトハウスコンサートの最後の曲「鳥の歌」において,うめき声を上げる

ほどの渾身の演奏に現われていたと思います.

 「カザルスさん,どうもありがとうございました」

 私は,夢のなかで,感謝の言葉を述べていました.もちろん,その部屋には誰も

おらず,バッハの無伴奏チェロ組曲10番のもの悲しい調べが繰り返し流れているの

みでした.
                                         (この稿終わり)

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