Intuition(閃き)は,その場その場で,何を感じ,何を思うかですが,それを現場で

洗練し,どう鍛えるかが重要です.本来の天性の部分に磨きを加えて,それを伸ば

していくことが問われますが,マリー・キュリーは,それに優れていました.

 この新婚旅行の船上での「閃き」に基づいて,二人は,光る石についての実験を

開始します.光電管(フォトマル)を用いて,石の光量を計る実験です.まず,ウラン

鉱石を載せて光量を計ると「8」という数字が得られました.それを踏まえ,その石を

粉々にして成分を分け,その成分ごとに光量を計っていきます.すでに分かってい

る物質は,2つあり,それらの光量の合計は「4」でした.しかし,残りの「4」の部分

が不明で,この実験は暗礁に乗り上げます.

 思うような計測値が得られないので,まず,実験装置に不備があるのではないか

と考えます.これは,実験研究者であれば当然のことであり,それを隅々まで調べ

て,何度もやり直すのですが,その原因が明らかになりません.あるとき,両親を呼

んで家で食事会をしていたのですが,その時も,マリーは,その実験装置のことで

頭が一杯で,食事の最中に,実験装置のアースが不十分だったのではないかとい

うアイデアを思い浮かべます.そのことをピエールに告げると,「そうかもしれない」

と彼もいって,食事を中断して大学へ向かいます.

 さすがに,両親は呆れてしまいますが,研究者にとっては,食事よりも,その頭の

中の事の方が大切であり,このような事が起こることは珍しいことではなく,また,

それが起こることは,研究が成功に近づく兆しでもあるのですが,そのことを研究

者自身も理解していません.

 実験室に戻り,アースを確かめましたが,アースに問題はなく,途方にくれます.

 ここで,ピエールが,もう一度最初から実験を行うことを提案します.それをやりな

がら考え直そうとうする冷静な姿勢が重要でした.このとき,マリーは実験がうまく

いかなかったので冷静に再考する余裕がありませんでした.

 こうして,何度も繰り返した光電管による実験を再現させましたが,出てきた結果

は同じでした.その結果を踏まえ,「その成分は,どうなっていますか?」と尋ねら

れ,それを書いた黒板で,そのひとつひとつの成分を読み上げながら,マリーは丁

寧にそれを説明していきました.

 その読み上げの最中に,第2の「Intuition」が起こります.それは,最後に記され

た「その他の物質,0.01g」を読み終えた直後のことでした.マリーは,ピエールに,

こういいました.

 「これまで,ウラン鉱石のなかにある光る物質は,すでに明らかになっている物

質だと思い込んでいました.そして,その物質はいくら探しても見つかりませんでし

た.しかし,その物質が未知のものであるとすると,それは当然のことであり,そ

のことを見逃していたのではないでしょうか」

 二人の目が,黒板の「その他の物質」の文字に注がれました.それは,どこにあ

るのか,マリーが,それをゴミ箱のなかから見つけます.その物質は,捨てた紙に

わずかにこびりついていたのでした.

 ここで,ピエールがいいます.

 「その物質で,光量4が計測されれば,私たちは,人類の誰もが知らない新しい

物質を発明・発見(
invention)したことになる.これで世界が変わる!」

 その光電管の計測値は,ぴたりと「4」のところで止まりました.これが,ラジウム

を発見した瞬間でした.それは,
intuitioninvention(発明,発見)に結びついて転

化した瞬間でもありました.

  この発見,発明に出会えたことは,非常に幸運なことでした.「ひらめき」を信じて

果敢に挑戦した成果でもありました.しかし,それは,同時に,二人の苦労の始まり

でもありました.そして,その過程で,研究者としての度量が試されることにもなりま

した.

 その度量が大きくなければ,あるいは,その過程で自らの度量を成長させること

ができなければ,すばらしい「
invention」としての発展は得られなかったのです.マ

リー・キューリーは,その成長
を自己実現できる人だったのです.いい換えれば,そ

inventionに「ふさわしい人物」に自らを変革できて成長できるかが問われたことで

した.

 こうして偉大な
inventionを行う人が偉大な人物になれる機会(チャンス)が与えら

れるのですが,それを活かすことができるかどうか,凡人にとっては,それが大変

な問題となるようです.

                                             (つづく)
J0436208