「Intuition」から「Invention」が生まれる過程を,キュリー夫妻によるラジウム発見

のに事例に則して考察してきました.しかし,その
Inventionは,「ゼロから1」が生ま

れたという意味では偉大なものでしたが,一方で,小さな研究室内での発見に留ま

るものでしかありませんでした.

 そこで,キュリー夫妻も,その発明を「1」から「2」へ,そして「10」から「100」へと

発展させていくことに取り組むことにしました.この時点では,ラジウムを発見したと

いっても,それは,捨てた紙の上に残っていた,わずか0.01gのその他の物質として

残されたものにあっただけのことでした.このラジウムを誰の目にも明らかとなるほ

どの量を確保し,それを持ってラジウムの存在を世の中に知らしめる必要がありま

した.

 そこで,ソルボンヌ大学に,新たな実験室を用意していただきたいとの申し入れを

行いますが,これが簡単ではありませんでした.

 まず,その発見を理解し,信用する人が,その大学の上層部にはいませんでし

た.これはよくある話で,私も高専で,同じようなことをよく体験しました.いくらキュ

リー夫妻が説明しても,結局は聞く耳を持たずで,なかには,そのような発見をして

もらっては困るとまで考えた方もおられたのではないかと思います.

 こうして,ようやく大学が夫妻に許可したのは,雨漏りのするおんぼろ掘立小屋で

した.その許可に対して,ピエールは,「馬鹿にするな」と怒りますが,マリーは,そ

れで十分と,その提案を受け入れました.雨漏りをするのは,自分が学生時代に住

んでいた下宿先で経験しており,そんなことは彼女にとって大したことではなかった

のです.ここが彼女の度量の大きさ,広さですね.マリーは,その場所さえあれば,

どんなところでもよい,実験ができさすればよい,このように考えたと思います.

 雨漏りは,修理すればよく,それができなくても,そこを避けて実験をすることはで

きます.これは,「貧にして学ぶ」ことができた人だけが可能な「貧にして研究でき

る」ことだったのです.これも現代に通じる話であり,「貧にして研究する」ことで,そ

の「知恵と工夫」が生まれてくる可能性を大いに信じることが大切です.

 さらに,自らラジウムを発見したキュリー夫妻には,その科学研究における展望

があり,それが,これから「ゆるぎない実験を行う」という「確信」に結びついていた

のだと思います.こうなると,少々の困難があってもへこたれることはありません.

この「確信」が,次の質量ともに優れた「
Invention」の実現を用意するものになって

いくのです.

                                              (つづく)

J0437047