雨漏りのするおんぼろ小屋におけるキュリー夫妻の実験が始まりました.ラジウムを発見したという「invention」をさらに確かなものにするための研究でした.約6トンのウラン鉱石のなかからラジウムだけを取り出すことをめざしました.

 当時は,その抽出技術も発達していなかったために,それを遂行するのには大変な労力と時間が必要でした.山積みされたウラン鉱石を溶解炉に運び,これをお湯の中で溶かし,分離を重ねていきます.それは炭鉱労働者の仕事のようなもので,夫妻は,それを黙々とこなしていきます.

 しかし,どんなにつらい作業であっても,目的が明確に定められていますので,それに敢然と立ち向かうことができました.ここが凡人と違うところで,凡人は,まず目標自身を持てない場合が多く,たとえ,それが定まっても,すぐにあいまいになってしまいます.返事はよくても,行動が伴わないというよくあるパターンです.

 ところが,キュリー夫妻は筋金入りのプロでした.途中,そのマリー・キュリーは,ラジウムの放射線で皮膚癌の症状が出るようになり,医者からは,その実験を止めるように諭されますが,それに同意するマリーではありませんでした.なんとしても,ラジウムを抽出するのだという強い思いがあったので,すこしも動じることはなかったのです.

 こうして4年余の歳月が過ぎ,来る日も来る日も実験を繰り返していきました.その実験も最後の頃になって,ペロー教授がお客さんを連れて視察にきました.それは年も暮れる大みそかであり,そのお客さんは,有名なケルビン卿でした. 

 その彼が,実験の成功を信じて祝辞を述べますが,その時に,これまで,その抽出実験を何回繰り返して実施してきたのかを尋ねます. ピエールは,その返事をいう代わりに,黒板に書かれた数字を示します.そこには,「5677」という数字が書かれており,それが実験を繰り返した数字でした.

 途方もない数字ですが,それをやり遂げたのですから,それだけの価値を有するものでもありました.

                                                        (つづく)

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