あれから,もうどのくらい経ったのであろうか.よく考えてみても,思い出せない.いや,それほど長い時間ではないはずだ.

 ここちよさで,あたまがもうろうとしながら,その思いが過ぎていった.

 しかし,それも束の間,ここちよさの次には睡魔が襲ってきた.これでは,つい,さっきまで,せっかくの楽しみと思い,じっくり読んでいた記事が認識の外に追いやられてしまう.

 こう思いながらも,もう睡魔には勝てそうもない.さらに,首までお湯に浸けて,ゆっくりと,そのここちよさに身を委ねるしかなかった.

 深い眠りの中で,それでもかすかに脳裏に残っている「ハスの思い出」を探った.

 あれは,たしか2010年の初頭であったろうか,半乾きのハスの胚芽をお土産にいただいたことがあった.この胚芽は貴重品で,当時の日本にはなく,わざわざベトナムから持ってきていただいたものである.

 当時は,この胚芽について何の知識もなく,それがハスの実の一部から採れることを初めて知った.また,ハスの花をスイレンのそれと間違えるほどの素人であった.

 まず,いわれるままに,その胚芽を食べてみた.噛むと最後の方で苦みを感じた.独特の苦みで,それ以上のものは味わえなかった.

 次にお茶にして飲んでみた.やはり,その苦みを覚えたが,それを好きにはなれなかった.このお茶を好むベトナム人もおられるとかで,この苦みに慣れて好きになるまでには相当の時間が要るのかもしれない.

 そして,いよいよ風呂に入れることにした.貴重品であり,どのくらい入れたらよいかもわからなかったので,最初は浸透性のある袋に70~80個(おそらく数ミリグラムであろう)をいれて確かめることにした.

 もちろん,お風呂は私が愛する「マイクロバブル風呂」であるが,そのここちよさの中で睡魔が私を完全に虜にした.

 お風呂のお湯は,胚芽から色が出てきたのであろうか,少し黄ばんでいた.

 「そうか,あのお茶のようなお風呂に入っているのか!」

 こう思いなおした.

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここは,どこであろうか.大きな湖がある.水は澄んで,きれいだ.水底まで見ることができる.

 大きく繁茂した藻のなかで,なにかが動いている.それにしても大きい,巨大な生き物であり,しかも多数が群がっている.

 「亀だ!しかも大きい,体長1.5mはあるな.色は黄色,どこか気品がある」

 こんな淡水に生きる亀を見たことがない,300年,400年と生きてきたのであろう.そうであれば,ベトナム戦争どころか,もっと昔から,その苦難の歴史を見てきた生き証人でもある.

 それにしても,その巨大な亀たちが泳ぐ様は雄大であり,しばし,見惚れたままであった.

 そういえば,最初にハスの胚芽風呂に入ったころに,日本のNHKで『ウエルかめ』という亀に因んだ放送があったことを思い出した.しかし,あれはウミガメの話であり,これとは違う.

 亀たちは,ますます雄大に泳いでいる.初夏の光の中で,気持ちよさそうだ.

 ふと目を上げると,その湖面には,ピンク色したハスの花の大群が広がっていた.

 「これはすごい,ここは別世界か!」

 眼前には,静かな,そして美しい初夏の昼下がりがあり,湖の畔には,それに憩う人々がいた(つづく).

Kanadamo

04 赤ゆらの花

 
沖縄の宮良長包作曲の歌です.上記の青い部分をクリックしてください.