長野県南部の阿智村に昼神温泉があります。そこでの温泉水について研究を行っています。マイクロバブルによる昼神温泉学を構築したい、これが私たちの目標です。

 たまたまですが、温泉について研究をしたいという、別の研究室の学生がやってきたので、その「いそうろう」学生を受け持つことになりました。

 「いそうろう」ですから、こちらもなかなか気を使いながらでしたが、最後には、なんとか頑張って研究をし、無事というか、なんとか卒業をしていきました。

 とてもユニークな学生で、彼のお父さんは、ある国立大学の教授をされていると聞いていました。

 以下は、その学生の行った研究の一部を紹介させていただきます。

 そこで、その温泉水の実験を行うために、その温泉水を送付していただきました。まず、彼には、温泉水の水素イオン濃度を変えて血流促進の実験を行ってもらいました。

 「先生、温泉水の温度は何度にしましょうか?」

 こう聞かれたので、「温泉水の温度を貴方の指の温度と合わせるようにしてください」、こいうと、それが33℃でしたので、その温度で実験をすることになりました。

 通常、この温泉水の水素イオン濃度(pH)は、9.7です。9.7といえば、アルカリ単純温泉にしては非常に高い方に属していますので、これだけでも名湯ということができます。

 この温泉水内に大きな塊の空気、すなわちミリバブルをいれます。そうすると、時間とともに、水素イオン濃度が低下し、pHが8.5、7.5と低下していきます。7.5であれば、ほとんど水道水と同じpHの値となります。

 そこで、まず、33℃の温度で実験をする意味ですが、この温度では、温度の効果による血流促進はほとんど起こりません。

 実際に、この温度の温泉水に手をつけても、「あたたく」、あるいは「ぬるく」感じるということはなく、冷たいということもありません。

 ですから、温泉水に手を浸けても、その手の皮膚表面の血流量はほとんど変化せず、入水前後では、ほぼ一定の血流量を示します。

 ところが、この状態で、マイクロバブルを発生させると、血流量は約3倍に増大し、マイクロバブル発生期間中は、その3倍知前後をほぼ維持します。

 この血流促進は、明らかに、この血流センサーによる計測に誤りがないかぎり、マイクロバブルの効果と考えることができます。

 この促進結果には、何度も出会ってますので、それは誤りではないと思っていますが、最初は、そのようなことが起こることはとても信じられませんでした。

 そのために、ありとあらゆるチェックをして、その計測の信頼性を検討しましたが、その事実に間違いはありませんでした。

 しかし、この驚くべき血流促進の結果を初めて目の前にすると、私と同じように、ほとんど方々が、それを信ずることができないようです。それだけ、常識外、「非常識」のことなのです。

 この結果は、水道水においても同じでした。

 次に、同じく水温を33℃にして、pH8.5の昼神温泉水での実験を行いました。今度は、マイクロバブルを発生させる前において、温泉水に手を入れると、やや血流量が増大しました。

 しかし、この状態で、マイクロバブルを発生させると、その血流量の増大は、同じく3倍程度で、上記の実験結果とはあまり大きな変化はありませんでした。

 これらの結果を踏まえますと、低いpHのアルカリ単純温泉においては、水道水の場合とあまり変わらないということになりました。これは、ある意味で、当然といえば当然のことでした。

 しかし、それでも、マイクロバブルを発生させると約3倍程度の血流促進が起こる、この特徴は明らかになりました。

 さて、少し時を巻き戻すことにしましょう。そのいそうろうのY君が提出する卒業研究の締切日の早朝のことでした。

 研究室にいくと、そのY君が元気なくしてうなだれていました。「どうしたの?」と尋ねると、彼は、こう返事をしました。

 「先生、卒業論文の締め切りは今日ですが、それを提出することができません」

 どうやら、一晩彼なりに悩んで下した重大な結論のようでした(つづく)。

  J0438430