正面視、側面視と観察を続け、今度は横断面視の撮影を行いました。

カキの内臓はどうなっているか、表皮のグリコーゲンの生成具合はどうなっているか。表面からだけではよく解らないので、いつのまにか、カキを中から観る癖がついていました。


カキ横断面

この写真においては、手前が、その断面で、奥の方には貝柱があります。向かって右テが「腹」と呼ばれる部分です。

この写真を眺めて、「おやっ?」とふしぎに思われる方が少なくないのではないでしょうか。それは、みんさんが見たり、食べたりしているカキとは、ずいぶん異なっているからです。

どこが違うかといいますと、それは、身の全体の中で、内臓が占める割合が非常に小さいことにあります。

内臓は、真ん中の黒い部分です。これを饅頭(まんじゅう)にたとえますと、餡子(あんこ)の部分に相当します。


普通は、この餡子の部分が多く、その周囲の白い部分は薄皮のように薄くて少ないのです。

ですから、それを外から観ると、中の内臓部分が透けて、白色のカキではなく茶褐・黒色のカキとして見えてしまいます。

ところが、このカキはまったく違います。薄皮どころか、内臓の厚さよりも、それを取り囲む身の方が厚くなっています。

この厚い身の形成によって、これまでとはまったく味の違うカキを出現させたのです。

広島のカキ漁師は、この身が厚くなり、白くなることを「グリが増えた」といいます。この「グリ」とは「グリコーゲン」のことです。

周知のように、グリーコーゲンは、生命体が生命を維持するために必要な糖分の一種であり、カキの場合は、空気中に晒されたときにしばらくの生命維持を可能にする物質に相当します。

いわば、元気の素であり、お菓子屋の「グリコ」は、この物質に因んで命名された由来を有しています。

ところが、このように白くてふっくらしたカキが、近年、ほとんど獲れなくなりました。

かつてのように成長しなくなり、日本中、どこでも発育不良の状態に陥っています。そのため、養殖期間が1年から2年へ、そして現在の3年へと延びているのです。

この成長不振の原因の大元は環境汚染にありますが、同時に、種そのものが弱り、いわば、未熟児状態での成長を余儀なくされているという困った状況があります。

かつて、北海道のサロマ湖の漁協に行った時に、昔のホタテの貝殻が展示されていました。その大きさは殻長で約30㎝、貝の厚さは5、6㎝もありました。

昔は、このようなサイズの貝が普通に獲れていたのです。

今では、到底考えられないことです。

そして、今のような水環境の悪化が続けば、ますます養殖期間が延長され、3年が4年、5年へと変化していくことでしょう。また、それに伴って貝のサイズもどんどん小さくなっていくことでしょう。


じつは、私たちは、未熟児のままで成長していった発育不良の貝を食べているのです。そのことを考えると、なにか空恐ろしくなるときさえあります。

私たちも同じ生物ですから、その健康を維持するには、正常に生育した生物を摂取し、同化していく必要があるのではないでしょうか。

さて、このグリコーゲンが豊富なカキの味が重要です。その最大の特徴は、その甘い美味しさにありました。

この甘さは、アミノ酸の多さに関係しているようです。そのことが一関高専の渡辺崇准教授によって明らかにされました。

この周囲の身のうち、とくに、腹の部分(写真の右側)において、グリシンという旨み成分が非常に多く含まれていました。

これに関係して、広島のカキにおいて、おもしろいエピソードがあったことを思い出しました。

私の友人が、こういったのです。

「お前が創ったカキは、広島のカキの味ではない。 違うカキだ!」

良く聞いてみると、もっと苦くて渋みがあるのが広島のカキであり、私が創ったカキは、その渋みや苦みがなく、甘みがあるというのです。

そこで、マイクロバブル育ちのカキの特徴を、同様の横断面写真を示しながら丁寧に説明し、納得していただきました。

彼の言葉の通り、広島においても新種のカキを創り出していたのでした。

それでは、なぜ、このような育ちの違いが生まれたのでしょうか。次回は、そのことについて考えてみることにしましょう(つづく)。